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邂逅2
呪いの幻影
しおりを挟むリコと名乗った少女は、きりりとした表情で唇をきゅっと結び、メンディスと名乗った梟を睨みつけている。
「魔女か。だからここに入ってこられたんだな」
納得したような、呆れたような口振りで首をくるりと回すと、メンディスはふわりと宙に浮きリコの目の前まで降りてきた。
(近くで見ると本当に大きい……)
同じ高さの地面に脚を下ろしても、小柄なリコとそう目線が変わらない。人間の幼児ほどありそうだ。
遠くで何か大きな獣のような咆哮が微かに聴こえる。あれは確か。
「……ここ、ドラゴンがいるの?」
世界ではっきりと所在を確認されていない幻の獣。ルート・オブ・アッシュにいるのなら、それは確かに一番の隠れ家であろう。
「さあな。いるのかもしれないが俺は見たことがない」
「そうなの…」
「気になるのか」
「まあね、魔女にとっては最大の力になると言われているし」
その血を飲めば不老不死になるだの、鱗一枚あれば一生遊んで暮らせるだの、眉唾ものの噂話もたくさんあるが、魔法使いの間でまことしやかに囁かれているのは、ドラゴンの信用を得れば、魔力を高めてくれるらしい、ということだった。
そうだ、あの女も確か言っていた。あとはドラゴンを手に入れれば、と―――。
(あれはどういう意味だったのかしら)
まだ長距離魔法移動の影響でぼんやりする頭では、あまり考えられない。ここに辿り着いた安堵で急に疲労感が襲ってきた。
(いやだ、本当に目眩がする……)
目の前にいるメンディスの姿が時折ぼやけたり揺れたりし始めて、リコは焦った。まだ信用できるかもわからない、人間でもない梟の前で倒れることは避けたい。
「どうした?」
異変に気づいたメンディスが訝しそうにリコを見上げる。その顔に、人間の顔が重なって見えた瞬間、リコはハッとした。
「メンディス……あなた、呪いをかけられているのね?」
今度はメンディスがハッとしたように大きな梟の目を見開き、固まった。
「……わかるのか?」
「わかっちゃうのよね、これが」
他の魔女をあまり知らないため、どの程度なのか自分ではわからないが、かなり有能な部類に入るのは間違いなさそうだ。だから、今ここにいるのだ、ということを改めて自覚した。
(とりあえずお腹空いたし、ちょっと恩を売っておこうかしら)
呑気に考えているようだが空腹は一番の敵だ。体力も減るし判断力も弱る。どんな状態でもその場で最大の力を発揮するのが魔女だ、と教わった。その為に極度の空腹と満腹どちらも良くない。適度に腹を満たしておかねばならぬと。
「ねぇ、その呪い、解けると思うわ」
「何だと?」
期待と警戒の混ざった顔で困惑するメンディス。
「あー、ごめん。完全に解けるかはわかんないけど、人間の姿に戻れる? なれる? どっちか。ずっとは無理かもしれないけど」
あまり期待させ過ぎてもよくない、と補足する。完全に呪いを解くのは難しいかもしれない。しかし、先ほど微かに浮かんだ人間の顔が、かなりリコの好みだったので、単純に見てみたい、とも思った。
「僅かでも人間の姿に戻れるなら、頼む」
(そっか、やっぱり元は人間なのね)
どうやら自分と同様に、複雑な事情がありそうだ。
「いいわ」
可愛らしくにっこりと微笑んだリコのお腹が、盛大に鳴った。
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