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邂逅2
世界樹(アッシュ)
しおりを挟む一瞬の沈黙の後、かあっと真っ赤になったリコと、肩を震わせる梟。
「……別に笑ってもいいわよ」
「腹が減ってるのか」
気を取り直したように問いかけるメンディス。梟の姿で笑うことに抵抗があるのか。
「まあね。遠くまで魔法で飛ばされたし、その前もあまり食べてないから」
「そうか」
思案するような仕草。
「お前が食べられるようなものは森にはないかもしれん」
「…あなたは何を食べてるの?」
梟とはいえ元は人間なのならば、鼠とか虫とか食べるのは抵抗があるのでは。しかし梟というのは確か肉食の筈だ。
「俺は水があればいいんだ。あとはそうだな、強いていえば気を吸収するというか」
「……便利ね」
何と反応して良いかわからなくなり、深刻にならないように返したが、メンディスはリコの言葉には反応しないで話題を変える。
「ところで、早く上からどいてくれないかって言ってるぞ」
「は?」
意味が理解できない。
「自分の上から脚を下ろしてくれと言っている」
「誰が?」
足許を見下ろしてみたが、そこにあるのは太い樹の根っこだ。地面から飛び出した何本もの根が広い範囲に伸びている。
メンディスは、指を差すように片方の羽根を広げ、リコの真後ろを指し示した。
「………お前が立っているのは、世界樹。この森の主だ」
言われてバッと振り向いた。そこには。
巨大な、巨大な樹木。上を見上げても枝の先が見えない。大小様々な枝は縦横無尽に張り巡らされているようで、長いものは端が見えない。まるで森全体がこの樹である錯覚を起こす。
(…………これが、世界樹)
思っていたよりもずっと巨大だった。その威風堂々とした佇まいに圧倒され、慌てて飛び退く。僅かな土の上を探して慎重に脚を下ろした。
「ちなみに、お前はそこから突然現れてきた」
リコは深呼吸する。杖を胸元にかざし片膝を折ると魔女流のお辞儀をした。
「親愛なる世界樹。わたくしをここに招き入れてくださり、ありがとうございます。わたくしはエスランタ王国の魔女、今は――リコと名乗ります。事情はお聞き及びかと存じますが、どうぞ今しばらく、この森に滞在することをお許しください」
メンディスは、急にリコの態度が変わったことにも驚きはしたが、彼女が言ったエスランタという国名にも驚いた。エスランタ王国はかなりの大国だが、このルート・オブ・アッシュを内包する王国ヴィダルからは随分と離れているからだ。その長距離を魔法で移動させるほどの力量の持ち主とは、一体どんな魔法使いなのか。リコ本人であるとは限らない。名前も今はリコと名乗るというならば、本名は違うのだろう。
しばしの沈黙の後、ざわり、と世界樹が揺れた。
《ようこそ。今日から君もこの森の番人だ。異質なものが入らないよう、しっかり頼むよ》
リコの耳にも世界樹の思念が伝わるようになり、身を引き締める思いだった。
「……ありがとうございます」
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