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第七章
170話 踊る理由
しおりを挟む「早く飲みなよ万。それとも俺が口移しで飲ませてあげようか?」
「飲みます」
薬瓶を取ろうとするウォルズの手を払い、瓶を掴む。薬を一気に口に流し込んで飲み下す。
「3分で出来上がるから」
「カップラーメンかよ」
そう言えば、ラルフの分はないのだろうか。尋ねれば、テイガイアが既に飲ませたと言う。
「変化なくない?」
「まつ毛が長くなる薬です」
「それ意味あるか!?」
「冗談ですよ。ラルフくんは薬に耐性がついてるんだと思います。そのうち変身できるでしょう。そうなると私も遅いかもしれないな。久しぶりにバン様に甘えようと思ったのに」
いつも甘えてるじゃないか。
「おっ、そろそろ3分だ」
と、ウォルズが時計を言いながら言う。瞬間、彼の口の上にもさっと口ひげが生えた。いや、どこからどう見てもウォルズなんですけど。
隣のジノが、むくむくと大きくなり、背も髪も伸びて、中性的美青年になってしまう。美人だ。ジロジロと見ていたら、ギロッと睨まれる。眼力は変わらないらしい。
テイガイアにはまだ変化がないが、その隣のイルエラは大きなウサギさんになってしまった。……そのウサギって、あのウサギじゃん。ツノは二本だけどあのウサギさんだ。
「おお、イルエラ美味しそう! マスター、イルエラ調理して!」
「ウォルズ、冗談でもやめてくれ!!」
でも、凶暴でないとわかっているからかちょっと、かわいいかも。俺もご飯を食べ終わったので席を立ってイルエラをもふもふしていたらキラキラ美人のジノが隣に来て目を輝かせながらイルエラを撫でだした。
そうか、動物は好きなのか。
「ヴァントリアも効きが遅いんだね」
そう言えば、自分は変化がない。
しかし、そう思ったとたん、髪の毛が伸びだして、胸が膨らみ出す。
「お、おお、お?」
心做しか目線も低くなっている気が……ハッ、お、お股の間の感触が消えていく! ひえ! 何これ!? いいの!?
「おー、これが公式の女体化! かわいいよヴァントリア! いいよ!」
「あ、うん」
どう反応したらいいんだろう。取り敢えず胸は揉んでみる。
――……て言うか、一般客もいるけど、いいのか、これは。俺達指名手配されるらしいじゃないか。これじゃバレバレだろう。
なんかジロジロ見られている気がするし。
「きゃあああっかわいい! さあ行きましょ! 衣装たくさんあるのよ!」
「え!?」
順応早くない!?
ハートさんに手を引っ張られ、踊り子達に背中を押される。この感じ! ノス・イクエアの時と似ている!
「ひょあああああ、どこに連れていく気だぁあ! ジノ、イルエラ! ウォルズ、テイガイアあ!」
道の端に止められていたランシャの荷馬車にポイっと積み込まれてしまう。
女の子がたくさん入ってきて、馬車の中でワイワイしている。あれ、これって。俺だけハーレム的な気分を味わえるんじゃないか? 最高かよ。もっとやれ。
うきうきしていたら、既にダボダボになっていた男の服を脱がされる。
「ちょ!? あの、自分で脱げるから! ていうか見ないで!」
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ~女の子同士じゃな~い」
いやでもなんか色々と失ってしまう気がする!
……うん、ウラティカの時に経験済みか。
されるが儘にされていたらやっぱり着せ替え大会が始まってしまった。
踊り子達が次々とやってきて、これも着てほしい、こっちもいいんじゃない?、これなんかどうかな、っと衣装を置いていくのだ。
「いやぁ~さすが王族出来が違うわ。見てよこの身体、男なのに肌すべすべもちもち」
「ちょおおおお!?」
背中に頬擦りされて思わず飛び退く。
「あ、あの! く、薬の影響だと思うし! て、て言うか、ほら、早く衣装も決めてさ……その、えっと」
「だって可愛いんだものー! かわいい子には服を着せよっていうじゃない!」
かわいい子には旅をさせよ、だと思う。
「ホント何この可愛さ。ほっぺたぷにぷに。唇ぷるぷる。おめめくりくり。ずるいわこの子ずるいわ」
ほっぺたを揉みくちゃにされる。やめてくれ。
「見てよこのお尻、何これ、キュートよこれこそキュート、誰かお尻振らせる振り付け考えてくれない?」
「胸も見てこれ、ヒュウヲウンよりおっきいんじゃない? 私達よりは小さいほうだけどぉ、手におさまらずしかし鷲掴めるって言うちょうどいい大きさだわ」
「わああああ!? 直で触るな揉むな!? 尻も胸も背中もほっぺもダメ!」
「何よりこの髪よ!」
「無視!?」
「一本一本見てみても、根元から毛先まで全部赤! 本当に真っ赤な髪なのねぇ」
「怖いくらい綺麗よね」
血みたいだって不気味がる人もいるんだけどな。ランシャの踊り子達は羨ましそうに見ている。
「いいな~親が赤いの?」
「え、ああ。父さんの髪が赤いよ」
「へえ~」
髪を弄り出す踊り子達。あの、裸なんですけど。寒いんですけど。
最終的に踊り子の衣装に着替えさせられ、髪も編み込みにしてまとめて貰えた。
「じゃ、踊りの練習しよっか!」
「え……?」
「言ったじゃない、舞台に立ってもらうのよ!」
「じゃ、じゃあ目立つのは困るから端っこに……」
「目立った方がいいのよ、わざわざ目立つ指名手配犯がどこにいるってね! 灯台下暗しよ灯台下暗し! 意味分かんないけどそんな感じよ! きっと!」
いや、灯台に照らされたところに立ってる状況だと思うんだけど。
「まあ今は女だし大丈夫なのか?」
赤い髪! 赤い瞳! ヴァントリア! ってシストに言われたら、胸揉ませて確かめさせればいいか。あいつ無駄に勘がいいからな。ヴァントリアの正体見破るの上手すぎ。
シストに見つかったら胸揉まれるのか……なんかそれやだ。絶対やだ。ヴァントリアって疑いながら胸を揉んでくるなんて、なんて変態野郎なんだ! 偉そうにしておいて女の子の胸揉むなんて最低! ……でもあいつは疑ってきそうなんだよな。胸揉まれるのはいやだから全裸になって…………絶対、やだ。シストなら舐め回すような目で見てくるもん!
……まあ、冗談はこれくらいにして。シストが自ら捜索してるわけじゃないし、たぶん平気だろう。
「わかった。……あ、でも、踊りなら少し習ったことがあるぞ」
「え?」
「俺の母さんが踊り子だったんだ。確か、それこそ10年以上は前だけど、ウラティカに教えるために、母さんから教えてもらったんだ。ウラティカには俺しか会えないからな。必死に覚えたから今でも踊れると思うけど……あ、でもグループ違うからだめか」
いちから覚える必要がありそうだなぁ。またウラティカに再会できたら教えてあげよう。
「ヴァントリア様のお母様って、確かメフィリアルーローン様よね?」
ハートさんが興味津々で尋ねてくる。
「うん」
「……踊り子だったなんて話知らなかったわ。どこのグループだったの?」
どこだっただろう。小さい頃に聞いた話だから思い出せない。
でもこの話は本当の筈だ。
その踊り子グループの舞台を見ていた父さんが、グループの華であった母さんに一目惚れしたのだから。
当時の母さんは踊り子の華としてとても有名だったらしいし、王族の血も引いていた。これは父さんが母さんに惚れるまでは、彼女自身も知らなかったことだ。
王族の血を引いていて、民にも家族にも好かれている。そんな人だったから、父さんとのお付き合いについて特に反対されることもなく、結婚までスムーズに進んだらしかった。
「まあ、その、母さんにたくさん教わったし、踊りを覚えるのは得意だから、ランシャの踊りも教えてくれたら嬉しいな」
「ええ、もちろんよ! あ、でも、踊りは簡単なものにするから、気負わなくていいのよ」
「ありがとう。俺踊るのは好きだから、頑張るよ」
下手くそだったら逆に目立ってしまうだろうし、彼女達に溶け込めるくらいには頑張らなきゃ。
……ヒュウヲウンは俺と踊りたいと言ってくれたし、約束したし。友達のためだと思えば踊る意味もあるかもしれない。
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