さげわたし

凛江

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第六章 アメリア その三

エイミー先生③

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「シオン先生とエイミー先生ってお似合いだよね。つきあっちゃえばいいのに」

ある日、女生徒の一人がそんなことを言い出した。
その日の授業が終わって、皆が帰り支度をしている最中のことである。

夜間学校が始まって早三ヶ月。
学校運営は順調で、生徒たちも楽しそうに通って来ている。
そしてその生徒たちの最近の関心事は、シオン先生とエイミー先生という若い二人の仲だった。
特に女の子はそういうことに敏感な年頃の子が多いのだ。
アメリアが領主の遠縁で貴族の令嬢だということをわかっている大人はそんなことは絶対言わないが、子どもは無邪気なものである。

「まさか。僕とエイミー先生じゃ身分が違いすぎる。恐れ多いよ」
最初に口を開いたのはシオンの方だ。
アメリアが驚いて固まってしまったのを見て否定してくれたのだろう。
「身分ってどうして?同じ先生じゃないの?」
「ばーか。エイミー先生はいつも立派な馬車が迎えに来るだろ?俺たち平民とは違うよ」
そう言ったのは女生徒より少し年上の男子生徒だ。
「ふーん、残念。お似合いなのに。みんなだってそう思うでしょう?」
女生徒はそう言いながら周囲を見回した。
大人たちは苦笑いしているが、子どもたちは「そうだ」「思う思う」などと囃し立てている。
シオンは困ったように笑い、アメリアはなんと答えたらいいのかわからず眉を寄せた。

そこに、ジャンが割って入った。
「みんな勝手なこと言うなよ。エイミー先生困ってるじゃん。だいたい、先生には彼氏がいるもんね」
「……は⁈エイミー先生に彼氏⁈」
当然のように女の子たちが食いつく。
「ああ。前に、俺が働いてるレストランでデートしてるの見たもん。それも、相手はサラトガ騎士団の騎士だったよね」
「騎士⁈」
「何それ!もっと詳しく!」
ジャンは助け船を出したつもりだったのだろうが、興味を持った生徒たちはわらわらとアメリアの周りに集まった。

「いいなぁエイミー先生!彼氏ってどんな人⁈」
「えっと、あの方は彼氏ではなくて…」
「じゃあ婚約者⁈そうじゃなきゃデートなんてしないでしょ?」
「あ、じゃあもしかして、いつも迎えに来るのもその人?」
子どもたちの興味はすっかり騎士に移ってしまい、もうシオンとアメリアの仲をどうこう言う者はいなくなった。

「ほらほら、そういう個人的なことを聞くのは失礼だよ」
今度割って入ったのは校長だったため、生徒たちは皆仕方なく口を噤んだ。
追い出されるようにして帰って行くが、これからもまた色々聞かれるのは間違いないだろう。
アメリアは明日からのことを思い、憂鬱になった。
皆既婚者であることは知らないしそれを話すつもりはないが、見られている以上、恋人か婚約者の存在は肯定するしかないと思う。
それに、そうすればシオン先生にこれ以上迷惑をかけることもない。

「エイミー先生、恋人がいらしたんですね。いや、いるだろうとは思っていたのですが…」
シオンが気まずそうに小さく笑う。
気をつかわせているようで、アメリアはなんだか申し訳ない気持ちになった。
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