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告白
157.
しおりを挟む「俺が憎いんだろ。俺がお前にしてきたことを今俺にしろ」
「なに、言ってんの」
ソンリェンの瞳は変わらず、真っすぐにトイを見上げていた。水に濡れてしまった金色の髪が艶やかに光っている。ソンリェンの目は本気だった。本気でトイに自分を犯せと言っていた。そこには嘲笑やましてや冗談めかした色すらも浮かんでいない。いっそ不自然なほどに力に満ちていた。
だからトイは、冗談だろうと苦く笑うことも出来なかった。
「わかるだろ、俺に突っ込めって言ってんだ。てめえのそれを」
ソンリェンが膝をくっと曲げてトイの臀部を押してきたせいで、てめぇのそれの意味がわかってしまいひゅ、と喉が狭まった。
反射的に彼の首元から腕をどかそうとしたのだが余計に固定される。ソンリェンはトイを逃がす気はないようだ。
「ついてんだろ。慣らさねえで突っ込め、好き勝手に腰振れ、俺の頬を叩け、思い切り蹴り飛ばせ」
「そんりぇん」
「お前の気がすむまで、俺を犯せ」
そんなことを言われてもただ困惑するだけだ。思考が固まるとはこういうことを言うのだろう。
ソンリェンの台詞の半分もトイの耳には入ってこなかった。
おれをおかせ、という単語だけが耳の中でぐるぐると回っている。
ぽたりと、滲んだトイの汗がソンリェンの白い眦の近くに落ちた。ソンリェンはそれでも、視線を逸らさなかった。
「ふざけてんの」
「ふざけてねえよ、本気だ。やり返しもしねえよ」
ふと、ソンリェンの力が緩んだ。
「……それで、これまでのことがチャラになるだなんて思っちゃいねえ。俺は……お前にしてきたことなんざ8割方覚えてねえんだよ。でもお前は覚えてんだろ、ひとつ残らず……」
ふとソンリェンの声が小さくなった。ソンリェンの唇が歪な形に広がる。見たことのない表情だった。ソンリェンが力を抜いた今ならなんとか逃れることも出来るはずなのに、トイは動けなかった。
「だからそれをやれ。それで少しでも、お前が笑うなら」
「そん、りぇ……」
ソンリェンの言葉通り、トイは覚えている。
意識が途絶えていない時に、彼ら4人にされたことは何一つ忘れていない。今でも夢にみるくらいだ。
ソンリェンにされてきたことも、何一つトイの中から消えてはいない。
けれども。
「それでもいいぜ、お前になら突っ込まれても」
ゆっくりと首を振る。
トイの汗で濡れた金色の睫毛が静かに瞬き、ソンリェンの目が細められた。
きらりと透明な輝きを放つそれから、目が離せない。
「お前になら……犯されてもいい」
ソンリェンは美人だ。
ディアナが彼を綺麗と言ったがその通りだと思う。顔の造形がそもそも整っているのだ。白い肌も高い鼻も切れ長の目も厚い唇も、艶やかだ。つまりは女顔なのだ。
背は高く、服の下は均整の取れたしっかりとした筋肉で覆われている身体だが、腰も細い。
喉仏や独特な低い声、角ばった肩や指を隠せば美女と言っても通るだろう。
ソンリェンは他の逞しい男性側から見れば、「抱かれる」対象に見えなくもないのかもしれない。けれども、ソンリェンは女顔を揶揄られると酷く怒り相手を半殺しにさえする男だ。
20歳を過ぎた今ではそれほどまででもないが、まだ体格が青年の域に達していなかった頃は酷かったと聞く。そのせいで同性にそういった対象で見られることに激しい嫌悪感を覚えているのだと、確かレオが言っていた。
ソンリェンは苛烈な性格している上、ノーマルだ。
エミーやロイズと違って、これまで関係を持ってきたのも女性だけのはずだ。
そんなソンリェンだからこそ、同じ性を持つトイに自らの身体を差し出すような真似をするなんてあり得ないのだ。
しかも、よりにもよって犯せだなんて。
お前になら犯されてもいい。そんな彼の言葉の意味を、正確にはソンリェンがその言葉をトイに言うに至った真意について考えたくなくて。
トイは緩慢な動作で、首を振り続けた。
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