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引っ越し★

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 シンジと浅川さんがお隣に引っ越してきた。

 今日はその引っ越し祝いを家でする事になっていたため、その準備に追われていた。

 「透、サラダできたけどまだ少し早いから冷蔵庫にしまっておくね」

 泉と2人でキッチンに立つのは久しぶりだ。

 エプロンをつけた泉が視界に入るたびに何だかドギマギしてしまう。

 真実から以前にもらった圧力鍋でビーフシチューを煮込み、手軽に食べれるおつまみを何品か用意した。
 
 「あと唐揚げ揚げておわりだから泉は少し休んでたら?それか今日お酒呑むでしょ?酔ったらそのまま寝れちゃうようにお風呂入っておいでよ」

 泉に声をかけるとじゃあそうすると言ってお風呂に入りに行った。

 

 泉と久々に2人で料理するの楽しかったな…。

 昔はしょっちゅう2人でキッチンに立ったものだ。

 むしろ泉に料理を教えて貰っていた。

 その時覚えたことを、今泉達の為に使えることは幸せだと思った。

 教えて貰ってよかった。

 自分にとって恩がある人達のために何かしてあげられるのは本当に嬉しい。


 唐揚げを揚げ、少し片付けていると真実と浅川さんが家に来た。

 「いらっしゃい、いまちょうど準備が終わったんだ。上がってよ」

 「透クン、今日は呼んでくれてありがとねっ☆んっ、いい匂いっ☆」

 「わざわざありがとな、さっき部屋片付いたばかりだったから助かるよ」

 真実が幸せそうな顔で微笑む。
 
 「本当に間取り一緒なのね、なんか不思議な感じっ」

 ちょうどお風呂から出てきた泉と鉢合わせた浅川さんが泉に抱きつく。

 「んっ、いらっしゃい。浅川さんって……もう水野さん……だね」

 浅川さんは真実と籍を入れたので確かにもう水野さんである。

 浅川さんはケラケラと笑う。

 「浅川のままでいいわよ。シンジと籍入れたって言っても、あんまり実感ないのよね……」

 真実がふうっとため息を吐いた。

 「まあまあ、とりあえずみんな座ってご飯にしようよ。みんな今日呑むんでしょ?」

 真実と浅川さん、泉にお酒を出そうとすると浅川さんが少し照れたように微笑む。

 「私は…ちょっと…今日はやめとくわ」

 「……?」

 どうして?と聞こうとして気づく。

 …もしかして…?!

 「あ!!ひょっとして赤ちゃん??」

 真実が嬉しそうにうなづいた。

 ……だったら、お酒じゃなくって…

 「炭酸水かお茶にしようか。フルーツあるから切って入れると美味しいよ」

 お酒の後の酔い覚ましように用意していたレモンスライスを氷と一緒にグラスに入れ炭酸水を注ぐと小ざっぱりとして美味しい。

 それを浅川さんと自分の分を用意して、真実と泉にはお酒を出す。

 みんなに飲み物が渡ったところで乾杯した。

 「浅川さんおめでとう、シンジも本当……良かったねえ!!」

 感極まって、思わず涙が出そうになる。

 真実はそんなオレに気づくと、笑いながらオレの頭を少し乱暴に撫でた。

 「次はお前らの番だな」

 そう言いながら真実は本当に幸せそうにしていた。

 泉も浅川さんも楽しそうに、そして美味しそうにご飯を食べてくれるのが嬉しかった。

 
 「ねえ浅川さん達の部屋見に行ってもいい?」

 泉が浅川さんに声を掛けている。

 「いいけど、まだそんなに物がないから来ても楽しくないわよ?」

 「うん、なんか引っ越したばかりの頃のことを思い出したいから、ちょうどいいかもっ」

 楽しそうに泉と浅川さんが連れ立って出て行った。

 「これからはお隣さんだね。いつでも頼ってね?いつ来てくれても良いからねっ!」

 真実がまた近くに住んでくれるなんて学生時代に戻ったかのようだ。

 「ああ、お前も泉とケンカしたらいつでも逃げてこいよ。匿ってやるから」

 ……泉とケンカって、縁起でもない……

 ぎくりとすると真実が困ったように笑った。

 「悪い、冗談だよ。……しかしやっぱりお前の作るメシは旨いな……」

 ビーフシチューを食べながら真実は微笑む。

 「なんかあの頃に戻ったみたいだな。泉と3人で暮らしていたあの頃が懐かしいな……」

 遠い何処かを見つめるような目をした真実。

 真実につられて、学生時代を思い出す。

 「あの頃は……まさか泉がオレなんかと結婚してくれるなんて思わなかったよ。オレ……真実が居てくれてなかったら泉と結婚できてなかったと思うんだ。だからすごく感謝してるよ」

 真実を見つめる。

 真実も視線を上げ、見つめあった。

 「オレ……絶対いつか今までの恩を真実に返すから、何かあったら絶対言ってね?」

 真実はぐいっとグラスに残っていたお酒を呑み干した。

 「莫迦なこと言うな、俺の方がお前に救われてる。泉だって、お前がいなかったら多分今も独り身だ。俺の家もお前に救われてんだよ。だから恩なんて考えずに、泉と幸せになる事だけ考えればいいんだ」

 照れたように真実は笑った。


 
 「本当におめでとう、浅川さんももうお母さんか…真実はきっと良いお父さんになると思うんだよねえ」
 
 おめでたい席だったので少しだけお酒を呑む。

 真実と交互にお酌し合って一杯だけ呑んだ。

 「浅川さん良くお酒やめたねえ。まあ辞めざるをえなかったんだろうけど」

 そう言うと真実が微笑む。

 「俺の子の為に浅川は酒を止めたんだ。俺も明日から酒は止めるつもりだ」

 最近泉から真実が禁煙をしたようだと聞いた。

 思えばそれも浅川さんとお腹の子に悪いからだったんだろう。
 
 「そうなんだ、じゃあストレス溜まったら家においでよ。何か美味しいもの作ってあげるから」

 真実を応援するために頑張ろうと思った。

 「その時は頼むよ……」

 嬉しそうに笑う真実。

 ……泉と真実の為に……この先の人生は2人に尽くしたい……そう心から思った。



 楽しそうな声な女の子達の声が聞こえ
、泉と浅川さんが戻ってきた。

 「どうだった?楽しかった?」

 ニコニコ笑っている泉に聞く。

 「まだ荷物が少なくって、結婚して引っ越してきたばかりのこと思い出したよ……もうあれから4年も経ったんだね」

 感慨深げに泉が呟く。

 そんな泉の足元にすずしろが身体を擦り寄せて、戯れついた。

 「……4年間どうだった?後悔してない?オレは泉の事……大切にできてるのかな?」

 泉の足元からすずしろを抱き上げて、そっとその後頭部に頬をくっつける。

 すずしろの後頭部はおひさまのにおいがした。

 泉はふっと微笑む。

 「もちろん後悔なんてしてないよ。透と一緒にいられてすごく幸せ。私の大事なものは全部この家にあるから……私はこの家を守りたいって思えるんだ」

 泉がオレの背中にちょこんと触れる。

 「……ずっと一緒にいてね?」

 泉のその言葉に、胸を突かれる。

 思わず泣きそうになってしまうのをなんとか堪える。

 泉は察してくれたのか優しく抱きしめてくれた。

 「泉……愛してるよっ……」

 なんとかそれだけ伝える。

 「うん、私もだよ……」

 泉が優しく頭を撫でてくれた。

 ウニャン!

 すずしろがするりと腕の中から抜けて、お気に入りのキャットタワー にのぼりくつろぎ始める。

 

 「もう、2人とも本当仲良いわね」

 浅川さんの声にハッとして顔を上げる。

 浅川さんの肩を抱きながら真実がなんとも優しい顔でオレ達を見て微笑んでいた。

 

 

 
 

 
 
 
 
 
 
 
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