117 / 128
君臨
あうあうあー
しおりを挟む
バークフォードの外壁と城塞、及び勇者襲来で被害を受けた全箇所の修復が完了した。魔族達の尽力によりわずか1ヶ月での完成となった。外壁はより強固な材料で補強され、ダミーと本物それぞれの城塞も新たな罠を取り付けて新製された。
ただそれよりも目立っているのが、ついでに設置された各広場の大型モニターだ。広場の中心にあった噴水や時計塔に取り付けられたモニターには、今の気温や街のニュース、お得な情報などが随時流れている。前の世界ではそこそこ田舎に住んでいたので、こんな光景は地元ではあり得なかった。その名に恥じない大都会となったな。
部屋のモニターに映る街の様子を観ながら、そんな感慨に耽っていた。そろそろ時間か。普段あまりしない正装で、司令室に久々に座った俺達は佇まいを直す。
「準備は良い?」
「いつでもどうぞ」
俺と並ぶアルフィは少し緊張しているようだ。
「アルフィ、大丈夫だよ」
「シャルル様」
「だって俺の方が何倍も緊張してるからな」
少しどころか滅茶苦茶緊張してる俺は、もうさっきから足がガタガタ震えて、表情がいっさい動かない。関係無いことを必死に考えてないと、失敗するイメージで頭がいっぱいになるぐらいだ。
「落ち着いてね?シャルル様」
「オウ、マカセロ」
アルフィの手元にあるスイッチを押せば、街にある全モニターの映像が俺達を映し出す。
「いくよ、3、2」
「ちょ!早い!10からやって!」
「えー?10、9、8、7、6」
「と!トイレ大丈夫!?」
「行っとく?」
「いや、俺は大丈夫だ」
「じゃあなんで止めたの。10、9」
「アルフィ!手!机の下で手握ってて良い!?」
「はいはい。これで良い?」
「お水持って来ようか?」
「スタート!」
急にボタンが押され、画面の上の方に放送中の文字が浮かぶ。
「ええ!?あ!あっ!」
「バークフォードの民達よ!今日は大切な話がある!」
始まった!?あ、どうしよう頭真っ白!
「まず初めにみなに感謝したい。先の戦いで勇者を撃ち倒せたこと、これは我々全員の、バークフォードの民全員の勝利である!尽力してくれた者、応援してくれた者、信じていてくれた者。全ての勝利だ。本当にありがとう」
「あうあうあー」
「目標であった勇者討伐は成した。なのでここからは未来の話をしよう。しかしその前に、もうみなも知っているだろうが、この街に欠かせない人物を紹介したい。私の隣に座る彼こそが、人の身で勇者と戦い、裏ではみなの生活を支え、良き友として、隣人として、常にこの街と民を愛する男、シャルル・ダカストロだ!」
「あの、その、ち、ちーす」
アルフィが繋いだ手をギュッと握る。俺ははっとして深呼吸をした。
「すーはー、よし」
一度目を閉じて、パッと開く。
「私はこの街に住むただの住民の1人だ。そう、みなと同じ。この街を愛するただのひとりの人間だ。そしてアルフォンソを、アルフィを愛する人間だ。ただの人間な私はひとりでは無力で、だけどアルフィと、この街をこれからも守りたい。だから今日はお願いがある。無力な私だが!なんにも出来ない私だが!どんなことがあろうと、私がみんなを守るから!みんなでこの街を、そしてアルフィを守ってくれないか!」
街の様子を映し出すモニターが人々の顔を映し出す。元カストの住人やドールズ達、街で仲良くなった人や魔道具工場の魔族。みなが頷き歓声をあげている。
「みんな聞いてくれ!私はこの瞬間から!魔王軍を抜ける!」
盛り上がっていた住民達だが、アルフィのその言葉で静まり返る。
「幹部では無くなった私と、この街は、魔族と敵対することになるだろう。勇者を撃退し、魔族である私が支配することで、王国からも狙われている今、この判断が自分達の首を絞める行為だということは理解している」
みんなが真剣にその言葉に耳を傾けていく。
「しかし私は考える。このまま魔王軍に属する限り、人間と魔族との真の平等は成されない。この街の人間が自らに誇りを持ち、魔族を助ける存在になるために、そしてこの街の魔族が自由になって、人間を心から愛することが出来るようになるために、私は魔王軍幹部の名を捨て、この街以外の世界の全てと戦うことを選択した!」
それぞれが、それぞれの立場でその言葉を理解しようとしている。そしてみんなが待っている。その時を。
「もう逃げたければ逃げろと、この街を去れとは言わない。あの日みんなに願ったことを、もう一度願おう。この街に!バークフォードに住む全ての民よ!私!アルフォンソ・ディ・バークフォードと共に戦ってくれ!今日からここは!独立国家バークフォード王国だ!」
民が両手を上げて歓声をあげる。魔族が空を飛び、花火が上がった。
「それともうひとつ相談がある」
「ん?」
なんだ?これで終わりだろ?
「国王には、シャルル・ダカストロを推薦したい!」
なんだ?なに言い出してんの?そんなの誰も納得するわけーーー
地震か。本気でそう思ったぐらいに、先程以上の歓声が響く。卑屈で自分を信じられないこの俺だが、モニターに映る民達の顔を見てしまったからには認めざるを得ない。彼らのその歓喜の表情が嘘だなんて、誰が言えようか。
「俺で、良いのか?」
「シャルル様以外にいないよ」
こうして俺はこの国の王となった。
ただそれよりも目立っているのが、ついでに設置された各広場の大型モニターだ。広場の中心にあった噴水や時計塔に取り付けられたモニターには、今の気温や街のニュース、お得な情報などが随時流れている。前の世界ではそこそこ田舎に住んでいたので、こんな光景は地元ではあり得なかった。その名に恥じない大都会となったな。
部屋のモニターに映る街の様子を観ながら、そんな感慨に耽っていた。そろそろ時間か。普段あまりしない正装で、司令室に久々に座った俺達は佇まいを直す。
「準備は良い?」
「いつでもどうぞ」
俺と並ぶアルフィは少し緊張しているようだ。
「アルフィ、大丈夫だよ」
「シャルル様」
「だって俺の方が何倍も緊張してるからな」
少しどころか滅茶苦茶緊張してる俺は、もうさっきから足がガタガタ震えて、表情がいっさい動かない。関係無いことを必死に考えてないと、失敗するイメージで頭がいっぱいになるぐらいだ。
「落ち着いてね?シャルル様」
「オウ、マカセロ」
アルフィの手元にあるスイッチを押せば、街にある全モニターの映像が俺達を映し出す。
「いくよ、3、2」
「ちょ!早い!10からやって!」
「えー?10、9、8、7、6」
「と!トイレ大丈夫!?」
「行っとく?」
「いや、俺は大丈夫だ」
「じゃあなんで止めたの。10、9」
「アルフィ!手!机の下で手握ってて良い!?」
「はいはい。これで良い?」
「お水持って来ようか?」
「スタート!」
急にボタンが押され、画面の上の方に放送中の文字が浮かぶ。
「ええ!?あ!あっ!」
「バークフォードの民達よ!今日は大切な話がある!」
始まった!?あ、どうしよう頭真っ白!
「まず初めにみなに感謝したい。先の戦いで勇者を撃ち倒せたこと、これは我々全員の、バークフォードの民全員の勝利である!尽力してくれた者、応援してくれた者、信じていてくれた者。全ての勝利だ。本当にありがとう」
「あうあうあー」
「目標であった勇者討伐は成した。なのでここからは未来の話をしよう。しかしその前に、もうみなも知っているだろうが、この街に欠かせない人物を紹介したい。私の隣に座る彼こそが、人の身で勇者と戦い、裏ではみなの生活を支え、良き友として、隣人として、常にこの街と民を愛する男、シャルル・ダカストロだ!」
「あの、その、ち、ちーす」
アルフィが繋いだ手をギュッと握る。俺ははっとして深呼吸をした。
「すーはー、よし」
一度目を閉じて、パッと開く。
「私はこの街に住むただの住民の1人だ。そう、みなと同じ。この街を愛するただのひとりの人間だ。そしてアルフォンソを、アルフィを愛する人間だ。ただの人間な私はひとりでは無力で、だけどアルフィと、この街をこれからも守りたい。だから今日はお願いがある。無力な私だが!なんにも出来ない私だが!どんなことがあろうと、私がみんなを守るから!みんなでこの街を、そしてアルフィを守ってくれないか!」
街の様子を映し出すモニターが人々の顔を映し出す。元カストの住人やドールズ達、街で仲良くなった人や魔道具工場の魔族。みなが頷き歓声をあげている。
「みんな聞いてくれ!私はこの瞬間から!魔王軍を抜ける!」
盛り上がっていた住民達だが、アルフィのその言葉で静まり返る。
「幹部では無くなった私と、この街は、魔族と敵対することになるだろう。勇者を撃退し、魔族である私が支配することで、王国からも狙われている今、この判断が自分達の首を絞める行為だということは理解している」
みんなが真剣にその言葉に耳を傾けていく。
「しかし私は考える。このまま魔王軍に属する限り、人間と魔族との真の平等は成されない。この街の人間が自らに誇りを持ち、魔族を助ける存在になるために、そしてこの街の魔族が自由になって、人間を心から愛することが出来るようになるために、私は魔王軍幹部の名を捨て、この街以外の世界の全てと戦うことを選択した!」
それぞれが、それぞれの立場でその言葉を理解しようとしている。そしてみんなが待っている。その時を。
「もう逃げたければ逃げろと、この街を去れとは言わない。あの日みんなに願ったことを、もう一度願おう。この街に!バークフォードに住む全ての民よ!私!アルフォンソ・ディ・バークフォードと共に戦ってくれ!今日からここは!独立国家バークフォード王国だ!」
民が両手を上げて歓声をあげる。魔族が空を飛び、花火が上がった。
「それともうひとつ相談がある」
「ん?」
なんだ?これで終わりだろ?
「国王には、シャルル・ダカストロを推薦したい!」
なんだ?なに言い出してんの?そんなの誰も納得するわけーーー
地震か。本気でそう思ったぐらいに、先程以上の歓声が響く。卑屈で自分を信じられないこの俺だが、モニターに映る民達の顔を見てしまったからには認めざるを得ない。彼らのその歓喜の表情が嘘だなんて、誰が言えようか。
「俺で、良いのか?」
「シャルル様以外にいないよ」
こうして俺はこの国の王となった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる