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一章 かつての生徒が迎えにきて
33話 その男、1000年前の記憶を取り戻す。
しおりを挟むすると俺の鼻先を飛び回っていたのは、羽のついた小さな少女……いや、精霊だった。
前に記憶が戻ったときみたく、初めて見るのに確信がある。
さっきまでの俺は、『精霊』なんて存在は知らなかった。
どうやら、この魔術式にはこの精霊の召喚術式だけではなく、俺のかつての記憶の一部が埋め込まれていたらしい。
たぶん、1000年前の俺自身が封印したのだろう。
理由は分からないが、わざわざ分けて封印をしていたということは……もしかすると転生することを予期していた?
俺が考え込んでいたら、精霊少女から声がかかる。
『ご主人……? お若くなりましたね、ずいぶんと』
鼻先で、顔もスタイルも整った小さな、手のひらサイズの少女が白のドレスをひらひらと回しながら首をかしげる。
白の精霊・ビアンコ――。それが、彼女の名前である。
その登場にもっとも驚愕していたのは、ルチアだ。
「しゃ、しゃ、喋った⁉ なに、この小さいの――」
授業で見ていたとおり、思ったことはなんでも口にしてしまうタイプらしい彼女だ。
大きな声を上げようとするから、俺はいったんその口元を手でふさぐ。
「ルチアーノくん、ここは図書館内だから静かにするんだ」
彼女が、目の大きさに比して小さい顔をこくこくと縦に振ったのを見てから俺はあたりを見わたした。
どうやら、他の人間には見られていないようで、ほっとする。
魔術書コーナーが地下階層の隅にあり、利用者がいないことに救われた形だ。
『小さいの、とは失礼ですね、小娘。わたしは、聖なる『白』の力を体現する精霊ですよ』
「小娘って、どう見ても君の方が小さいじゃん」
『そういうことではありません! わたしは魔術元素のうち、白に分類される項目をつかさどる精霊であって……』
「なにそれ、白色? 服の漂白とかできるの?」
……ビアンコと、ルチアにより、ずれまくった会話が交わされる。
このままでは収集がつかなさそうだったから、俺は一旦、ビアンコの召喚術を解くことにした。
『ご主人、わたしとこの娘と。どちらが小娘だと思われ――』
なにか言いかけていたが、うん、聞いても仕方がなさそうな内容だ。
久しぶりの再会の余韻もなく、俺は魔術サークルの外周を少し崩した。
こうすることで、召喚は解ける。
一度召喚をすれば今度からは、完成した式を記録しておくことですぐに呼び出せる仕組みだ。
「……アデル先生、今のなに?」
ビアンコが消えて、ルチアが改めて問う。
そりゃあ、首を傾げたくもなるだろう。
今の時代、誰も精霊なんて召喚できない。
精霊は属性魔法の五大元素と同じく、五体がいるとされてはいるが、それはあくまで神話の話。
誰もが幻の存在だと理解している。
……が、記憶の蘇った今ならそれが違うと断言できた。
彼らは幻の存在ではなく、実在する。
もっとも、1000年前においても、ほんの一握りの術者のみが召喚できるほぼ幻の存在だったが。
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