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二章 属性魔法学との対峙
42話 まずは基礎から。
しおりを挟むこうして研究室が開いて、まず初めに行うことにしたのはルチアの基礎固めだ。
「えー、てっきりいきなり制作魔術とか教われるんだと思ってたよ」
机のうえで、彼女は不満そうにしなだれる。
「そういうのは、基礎を固めてからだよ。まずは基本になる【魔素収集】【浮遊】【鑑定】、このあたりの魔術から習得してもらおうか」
「むぅ。でもでも、ルチア。もう【浮遊】ならある程度できるんだよ。先生に憧れて練習したんだから。……見ててね」
どうやら、むきになったらしい。
体を起こした彼女は一気に真剣な表情になり、立てた人差し指の先を魔力で光らせる。
「紋様はこうで……式は、こうだ! 発動!」
それにより、やや不安定ながら俺が手元で飲んでいた紅茶のカップが浮き上がる。
一応、中身をまったくこぼさないまま、元の位置に戻すことに成功していた。
「ほーらね。なかなかやるでしょ。どーよ」
「たしかにすごいですよ、先生。ここまで早い人は、そうそうおりません」
思いがけないことだったようで、リーナがぼそりと呟く。
たしかに、その操り具合は、なかなかのものだった。
普通、たった数日でここまで上達はしない。
ひと月程度かかってようやく、安定的に持ち上げられるようになる。
一度は授業をしたとはいえ、それだけでここまでうまくなるのは、才能がなければ難しい。
「ルチアーノくんは、どうやら魔術の天才らしいな」
「まーね。隠しても勝手に溢れちゃうんだよ。火属性魔法もそこそこ使えるし、才能かな?」
「でも、だからこそだ。きちんと基礎からやったほうがいい」
「えー、結局⁉ できてるのに?」
「できているからこそだよ。このまま、形が固まるのはあんまりよくない。魔術は式と紋様だけじゃなく、魔力の流し方も重要なんだ。
今のままじゃ【浮遊】には対処できても、他の魔術を使おうと思ったら、また一から覚えなくちゃいけなくなる。
どんな魔術使いになるとしても型をおろそかにしない方がいいよ、ルチアーノくん。
これはなにごとにおいても、そうだ。剣だって型がなってなくても強い奴はいるが、ある一定以上のレベルには達しない。基礎は、あらゆる物事の根底にある」
才能はあれど、潰れてきた人間は前世でも今世でも、何人も見てきている。
ルチアには、そうなってほしくなかった。
俺がこう言うのに、リーナがこくりと首を縦に振る。
「さすがは先生です。基礎がなければ応用はない。昔から口癖のようにおっしゃっていましたものね。今でも、私は胸に刻んでおります」
実際、理事まで成りあがったリーナがこう言うのだから説得力が増す。
「……そう言われたら、たしかに。どうせやるなら、すごい魔術師になりたいし、とりあえず基礎からやってみる」
おかげでルチアも納得してくれたようであった。
そのため、そこからは魔術を使う際の魔力の流し方の基礎練習を執り行う。
魔力のコントロールは心理の揺れや、身体の疲労具合でも乱れる。まずはそれを一定に保つ練習からだ。
「邪念を消して、空中に一本の直線を書けるよう、まずは意識するんだ。『凝縮』型の性質を持つ魔術は、この習得が必須になる」
「うわ~、たしかに難儀かも。でも、その方が燃えてくるかも」
ルチアが自主練に入っていく。
とんでもない集中力が発揮されているのは、傍から見ていても分かった。
こうなったら、しばらくは邪魔をしないほうがよさそうだ。
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