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第二十四話
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メール領へ向けて、一部の兵士たちと共に、メール領へとアリシアたちは歩を進める。
夜間に出発し、到着予想は三日前後くらいだろうか。
道中、野営をしながら歩を進め、必要な食糧と斥候からの偵察などの情報を受け取りながら前へ進める。
当然、ヴィクトールたちも斥候を用いてアリシアたちの動きを多少は、追っているだろう。
今はユリゼンたちが重要な双子壁の制圧に向かっているため、敵方の意識は完全にユリゼンたち本隊に向いているとはいえ、いずれは不在がバレるのは時間の問題である。
カルデシア辺境伯との一件の時と同じ、あまり不在期間を延ばすわけにはいけない。
馬に跨がり、二日目の朝。
隣で馬を併走させているレオンが欠伸をしながら口を開く。
「フェルド・フォン・バラン、か……」
レオンは不意にその名を口にした。
レオン……いや、フォルカード家にとっては因縁の相手に、思うことがあるのだろう。
アリシアは彼に問う。
「復讐でもしたいのか?」
内務卿としてのフォルカード公爵は、その立場を追いやられた。
世間一般的にはフォルカード公が内務卿として政治にかかわっていると認識されているが、実際には“居てるだけ”の存在なのだ。
今の彼は単に召集されては応じるだけの、全く立場のない存在なのである。
……もっとも、それは戦争前の話で、今はどうなっているかは聞いていないが。
「復讐はしねェが、決着だけ付けとかねェとな。俺も親父も既に反逆者だしな」
アリシアもレオンの父親をよく知っている。
疲れ切った表情で、虚無のようにお飾りの領主をしている人間だ。
だが、アリシアの中にある感情は同情などではなく、軽蔑であった。
やられたまま、良いようにやられている男。
それがアリシアにとってのフォルカード公への評だった。
どうして、やられたからにはやり返そうとしないのだ。
かつてはそんな風に思っていた。
だが、今回の戦では事情が違う。
「よく、お前の父親が許したな?」
バラン公に嵌められても、国王から貴族の特権のほとんどを奪われても、それでもなお何もしなかった男とは到底思えない行動だ。
「仕方ねェさ。親父はもはや、生きているのも死んでいるのも変わらねェ。だからこそ、国家転覆の一つや二つでもしねェと、昔のような立場には戻れねえのさ」
「自暴自棄だな。フォルカード公も。お前も」
「ははは。親父はともかく、俺ァ今が一番充実してるんだぜ?」
きっと、この男はしっかりと父親を説得してみせたのだ。
国家反逆という命がけの勝負に出るには、決断力がいる。
フォルカード公には残念ながら、国家と戦うなど、絶対に日和見をしようとするだろう。
だが、レオンは違う。
この男には、形勢や忠義では動かない。
「さ。つまらねェ話は終いだ」
レオンは真っ直ぐ道を見ていた。
メール領に到着したアリシアたち一行は、馬を常歩で走らせる。
「戦時と言えども、ここは大したほど変わらねェな」
さて、情報収集だ、とレオンは手を叩く。
身分を隠して、聞き込みを行い、必要があればメール伯と接触を行う。
そう考えを告げているが、アリシアにはどうも周囲が気になる。
畑道の左右には、どこまでも広がる小麦畑が風に揺れている。
だが、揺れ方が不自然だ。
風で揺れているワケでもない。
獣が潜んでいるにしては、量が多すぎる。
……となれば。
「下がれ、レオン」
「どーしたよ。何かあったか」
「ああ」
アリシアは静かに呟く。
「伏兵だ。囲まれているぞ」
夜間に出発し、到着予想は三日前後くらいだろうか。
道中、野営をしながら歩を進め、必要な食糧と斥候からの偵察などの情報を受け取りながら前へ進める。
当然、ヴィクトールたちも斥候を用いてアリシアたちの動きを多少は、追っているだろう。
今はユリゼンたちが重要な双子壁の制圧に向かっているため、敵方の意識は完全にユリゼンたち本隊に向いているとはいえ、いずれは不在がバレるのは時間の問題である。
カルデシア辺境伯との一件の時と同じ、あまり不在期間を延ばすわけにはいけない。
馬に跨がり、二日目の朝。
隣で馬を併走させているレオンが欠伸をしながら口を開く。
「フェルド・フォン・バラン、か……」
レオンは不意にその名を口にした。
レオン……いや、フォルカード家にとっては因縁の相手に、思うことがあるのだろう。
アリシアは彼に問う。
「復讐でもしたいのか?」
内務卿としてのフォルカード公爵は、その立場を追いやられた。
世間一般的にはフォルカード公が内務卿として政治にかかわっていると認識されているが、実際には“居てるだけ”の存在なのだ。
今の彼は単に召集されては応じるだけの、全く立場のない存在なのである。
……もっとも、それは戦争前の話で、今はどうなっているかは聞いていないが。
「復讐はしねェが、決着だけ付けとかねェとな。俺も親父も既に反逆者だしな」
アリシアもレオンの父親をよく知っている。
疲れ切った表情で、虚無のようにお飾りの領主をしている人間だ。
だが、アリシアの中にある感情は同情などではなく、軽蔑であった。
やられたまま、良いようにやられている男。
それがアリシアにとってのフォルカード公への評だった。
どうして、やられたからにはやり返そうとしないのだ。
かつてはそんな風に思っていた。
だが、今回の戦では事情が違う。
「よく、お前の父親が許したな?」
バラン公に嵌められても、国王から貴族の特権のほとんどを奪われても、それでもなお何もしなかった男とは到底思えない行動だ。
「仕方ねェさ。親父はもはや、生きているのも死んでいるのも変わらねェ。だからこそ、国家転覆の一つや二つでもしねェと、昔のような立場には戻れねえのさ」
「自暴自棄だな。フォルカード公も。お前も」
「ははは。親父はともかく、俺ァ今が一番充実してるんだぜ?」
きっと、この男はしっかりと父親を説得してみせたのだ。
国家反逆という命がけの勝負に出るには、決断力がいる。
フォルカード公には残念ながら、国家と戦うなど、絶対に日和見をしようとするだろう。
だが、レオンは違う。
この男には、形勢や忠義では動かない。
「さ。つまらねェ話は終いだ」
レオンは真っ直ぐ道を見ていた。
メール領に到着したアリシアたち一行は、馬を常歩で走らせる。
「戦時と言えども、ここは大したほど変わらねェな」
さて、情報収集だ、とレオンは手を叩く。
身分を隠して、聞き込みを行い、必要があればメール伯と接触を行う。
そう考えを告げているが、アリシアにはどうも周囲が気になる。
畑道の左右には、どこまでも広がる小麦畑が風に揺れている。
だが、揺れ方が不自然だ。
風で揺れているワケでもない。
獣が潜んでいるにしては、量が多すぎる。
……となれば。
「下がれ、レオン」
「どーしたよ。何かあったか」
「ああ」
アリシアは静かに呟く。
「伏兵だ。囲まれているぞ」
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