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イチャモメ編
Norty Dog
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閑静な住宅街に建つ自宅でシャワーを浴びたルカは、浴室を出てバスローブを羽織った。
ドライヤーで金の髪を乾かしながら、このあとの予定を思案する。
寝室に上がるにはまだ早く、けれどこのところは仕事のスケジュールも空いていて、目を通しておかなければならない資料もない。
日頃は何かと忙しく読み切れていなかった本も、この数週間でほとんど片付けてしまった。
就寝までの時間を有意義に過ごす手はないものか。
鏡に映る自身の姿を眺めながら、ルカはこの館にいる二匹の犬を思い浮かべた。
正式な住民である白と灰色の大型犬、アシュリーは、普段よりもルカが自宅にいることが多い現状にはしゃいでいる。
時間に余裕があると散歩やブラッシングに手を掛けてやれるので、愛犬とのコミュニケーションの時間を大切にしたいルカにとってもその点は有難い。
問題はもうひとり、すっかり居ついてしまった野良犬である。
正確に言うなら犬ではないし、ルカが拾ってしまったので、もう野良でもないのだけど。
長年つかず離れずの関係を続けていた大河と、きっちり話をつけたのが一ヶ月ほど前。
以来、大河がここに来る頻度が以前より増えて、そのまま出歩くことを控える事態となり、なんとなくこの自宅で共に過ごす時間が多くなった。
館への滞在自体に文句があるわけではないので、それは良い。
だが、大河の態度には些かの不満があるような、ないような。
さしあたっては理由など何でも良く、大河に一泡吹かせてやりたい。
端的に言えば、ルカは暇を持て余していた。
乾かし終えた髪を整えながら思考を巡らせていると、先日インターネットで見かけた動画の存在を思い出し、戯れを思いつく。
そして洗面室のドレッサーに並んでいる香水瓶の中から一本のボトルを選んで、太ももの内側にしゅっとひと吹き。
ふわりと香る柑橘系のフレグランスを纏い、スマートフォンを手にして大河の元へ向かった。
リビングを覗くと、ヘッドフォンをつけた大河がソファの上で機嫌良くベースをかき鳴らしている。
ルカは手元の端末でカメラを起動し、動画モードで録画ボタンを押した。
足音を立てずにソファへ近づいても、大河はまだ気づかない。
画面の中で動く大河を確認しながら、ちょうど飲み物を口に運ぶタイミングを見計らって、するりとバスローブを肩から落とした。
「岸波」
「ん? ……っぶほッ」
白い裸体が露わになるのを横目で見た大河が、口にしていたペットボトルの飲料を噴き出す。
「な、おまえ、なに、」
疑問符を頭中に浮かばせながらも、大河はいそいそとヘッドフォンをはずし、ベースを置いて立ち上がった。
ルカの明け透けな言動には慣れている大河も、さすがに動揺を隠し切れない。
「いきなり何してんだよ」
大河は迷わずルカのもとへ歩み、艶やかな素肌に腕を回して腰を抱く。
バスローブは足元へ落ち切って、一糸纏わぬからだが抱き寄せられて大河と密着した。
「気に入らなかった?」
「入らなくねぇけど意味はわかんねぇな……」
突然の行動に戸惑うが、恋人がはだかで姿を見せたのだから、明らかな誘いに乗らないわけにはいかない。
大河が顔を傾けてルカに唇を寄せた。
「ん、」
キスを深めながら、ルカは傍らのソファへ沈められる。
覆い被さる大河が口づけを繰り返して、それからルカが胸の前で握りしめているスマートフォンの存在にようやく気を留めた。
嫌な予感がして怪訝そうに目元を歪める。
「てかおまえ、何撮ってんだ」
「安心しろ。駄犬の馬鹿面を見返して個人的に楽しむだけだ」
「はぁ?」
「なかなか悪くない反応だったぞ」
インターネット上で流行っている、ゲーム中の恋人のもとに全裸で現れる動画を真似てみたのだ。
きっちり録画された大河の言動に満足して、ルカはスマートフォンの画面を上機嫌で眺める。
揶揄われたのだと気づいて、大河は一瞬でかっと頭に血がのぼった。
「貸せ」
「っ、何をする!」
端末を奪った大河が、カメラをルカに向ける。
「おまえは撮られる方が専門だろうが」
「ふざけるな」
画面には裸で組み敷かれた不機嫌なルカが写っているはずで、咄嗟に腕で顔を覆った。
「顔だけ隠すと余計エロいな」
軽口を叩く大河に蹴りを入れようとあげた足は掴まれて、大きな手が太ももを撫でる。
肌に馴染んだ香水のかおりを感じながら、画面の中を見つめる大河が憎たらしい。
けれど、裸体を撮影しているというアブノーマルなシチュエーションに、少なからず大河の息が上がるのを感じて、ルカの気分も高揚した。
自宅で共に過ごす機会が増え、それが当たり前だと慣れてしまってはつまらない。
退屈しのぎになればと悪戯心を出したのだし、大河が望むのであれば、このような刺激もたまには悪くない気さえ沸いてくる。
幸いデータが残るのはルカの端末なのだから、あとで消せば問題ないだろう。
しかし、ルカが抵抗する力を抜いて好きにさせてやろうとしたのと同時に、大河は撮影を中断して、ぽいとスマートフォンを手放した。
「やめた。画面越しに見てもつまんねぇ」
熱情を孕む瞳が、レンズを通さずにまっすぐルカをじっと見つめる。
小細工のいらない思考回路に心がくすぐられて、思わずルカの口からくっと笑みが漏れた。
この眼が獲物を捕らえるように視線で刺すから、ルカのからだも疼くのだ。
大河の首に両腕を回して抱き寄せ、自然と綻ぶ唇で口づけると、納得のいかない顔をしながら噛みつくようなキスが返された。
ドライヤーで金の髪を乾かしながら、このあとの予定を思案する。
寝室に上がるにはまだ早く、けれどこのところは仕事のスケジュールも空いていて、目を通しておかなければならない資料もない。
日頃は何かと忙しく読み切れていなかった本も、この数週間でほとんど片付けてしまった。
就寝までの時間を有意義に過ごす手はないものか。
鏡に映る自身の姿を眺めながら、ルカはこの館にいる二匹の犬を思い浮かべた。
正式な住民である白と灰色の大型犬、アシュリーは、普段よりもルカが自宅にいることが多い現状にはしゃいでいる。
時間に余裕があると散歩やブラッシングに手を掛けてやれるので、愛犬とのコミュニケーションの時間を大切にしたいルカにとってもその点は有難い。
問題はもうひとり、すっかり居ついてしまった野良犬である。
正確に言うなら犬ではないし、ルカが拾ってしまったので、もう野良でもないのだけど。
長年つかず離れずの関係を続けていた大河と、きっちり話をつけたのが一ヶ月ほど前。
以来、大河がここに来る頻度が以前より増えて、そのまま出歩くことを控える事態となり、なんとなくこの自宅で共に過ごす時間が多くなった。
館への滞在自体に文句があるわけではないので、それは良い。
だが、大河の態度には些かの不満があるような、ないような。
さしあたっては理由など何でも良く、大河に一泡吹かせてやりたい。
端的に言えば、ルカは暇を持て余していた。
乾かし終えた髪を整えながら思考を巡らせていると、先日インターネットで見かけた動画の存在を思い出し、戯れを思いつく。
そして洗面室のドレッサーに並んでいる香水瓶の中から一本のボトルを選んで、太ももの内側にしゅっとひと吹き。
ふわりと香る柑橘系のフレグランスを纏い、スマートフォンを手にして大河の元へ向かった。
リビングを覗くと、ヘッドフォンをつけた大河がソファの上で機嫌良くベースをかき鳴らしている。
ルカは手元の端末でカメラを起動し、動画モードで録画ボタンを押した。
足音を立てずにソファへ近づいても、大河はまだ気づかない。
画面の中で動く大河を確認しながら、ちょうど飲み物を口に運ぶタイミングを見計らって、するりとバスローブを肩から落とした。
「岸波」
「ん? ……っぶほッ」
白い裸体が露わになるのを横目で見た大河が、口にしていたペットボトルの飲料を噴き出す。
「な、おまえ、なに、」
疑問符を頭中に浮かばせながらも、大河はいそいそとヘッドフォンをはずし、ベースを置いて立ち上がった。
ルカの明け透けな言動には慣れている大河も、さすがに動揺を隠し切れない。
「いきなり何してんだよ」
大河は迷わずルカのもとへ歩み、艶やかな素肌に腕を回して腰を抱く。
バスローブは足元へ落ち切って、一糸纏わぬからだが抱き寄せられて大河と密着した。
「気に入らなかった?」
「入らなくねぇけど意味はわかんねぇな……」
突然の行動に戸惑うが、恋人がはだかで姿を見せたのだから、明らかな誘いに乗らないわけにはいかない。
大河が顔を傾けてルカに唇を寄せた。
「ん、」
キスを深めながら、ルカは傍らのソファへ沈められる。
覆い被さる大河が口づけを繰り返して、それからルカが胸の前で握りしめているスマートフォンの存在にようやく気を留めた。
嫌な予感がして怪訝そうに目元を歪める。
「てかおまえ、何撮ってんだ」
「安心しろ。駄犬の馬鹿面を見返して個人的に楽しむだけだ」
「はぁ?」
「なかなか悪くない反応だったぞ」
インターネット上で流行っている、ゲーム中の恋人のもとに全裸で現れる動画を真似てみたのだ。
きっちり録画された大河の言動に満足して、ルカはスマートフォンの画面を上機嫌で眺める。
揶揄われたのだと気づいて、大河は一瞬でかっと頭に血がのぼった。
「貸せ」
「っ、何をする!」
端末を奪った大河が、カメラをルカに向ける。
「おまえは撮られる方が専門だろうが」
「ふざけるな」
画面には裸で組み敷かれた不機嫌なルカが写っているはずで、咄嗟に腕で顔を覆った。
「顔だけ隠すと余計エロいな」
軽口を叩く大河に蹴りを入れようとあげた足は掴まれて、大きな手が太ももを撫でる。
肌に馴染んだ香水のかおりを感じながら、画面の中を見つめる大河が憎たらしい。
けれど、裸体を撮影しているというアブノーマルなシチュエーションに、少なからず大河の息が上がるのを感じて、ルカの気分も高揚した。
自宅で共に過ごす機会が増え、それが当たり前だと慣れてしまってはつまらない。
退屈しのぎになればと悪戯心を出したのだし、大河が望むのであれば、このような刺激もたまには悪くない気さえ沸いてくる。
幸いデータが残るのはルカの端末なのだから、あとで消せば問題ないだろう。
しかし、ルカが抵抗する力を抜いて好きにさせてやろうとしたのと同時に、大河は撮影を中断して、ぽいとスマートフォンを手放した。
「やめた。画面越しに見てもつまんねぇ」
熱情を孕む瞳が、レンズを通さずにまっすぐルカをじっと見つめる。
小細工のいらない思考回路に心がくすぐられて、思わずルカの口からくっと笑みが漏れた。
この眼が獲物を捕らえるように視線で刺すから、ルカのからだも疼くのだ。
大河の首に両腕を回して抱き寄せ、自然と綻ぶ唇で口づけると、納得のいかない顔をしながら噛みつくようなキスが返された。
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