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第2部 呪いの館 救出編
19話
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華は彼女の部屋のベッドで寝かされていた。絶望した彼女が自ら自害した場所ー。
先程の見た悲劇を思い出し、華は嘔吐した。
◇◇◇
「華!?」
慌てふためく怜の声が聞こえてくる。
彼からすれば、気絶して目が覚めた途端にいきなり叫び出し、今度は正気に戻った途端に吐いたのだ。無理もない。
怜を心配させたくないのに、自分の身体が言う事を聞かなかった。
吐き気も涙も抑える事ができない。まるで心と身体だけ切り離されたみたいだ。
華の感覚はある意味、正しかった。華と同化した彼女が、華を御して表面に出たきたのだから。
「この部屋から出たいの」
華の姿をした彼女が、縋るように怜を見上げた。その瞳は碧い。
その変化にハッと息を飲む。呼応する様に怜の眼も碧く変化した。
「わかった」
彼女に呼応して青年の霊が、彼の表面に出てきた。そのまま華を横抱きにすると、彼女の部屋から出て隣室の少年の部屋に向かった。
少年のベッドにそっと華を横たわらせる。
「もう大丈夫か?」
愛しいものに触れるように、青年が華の頬を軽く撫でる。
青年にとっては生前と姿形は違っていても、今目の前にいるのは愛しい婚約者そのものだった。触れた所から、彼女の魂の気配が伝わってくるのだから。
「少し楽になったわ」
自分の頬に置かれたの彼の手に、彼女も自らの手を重ねた。
相変わらず彼女自身の名前も婚約者や弟の名前は思い出せない。
でもその手は彼女にとって間違いなく、愛しい人の手だった。
彼女が心を守るには、辛い記憶だけでなく、それに関わる全てを封じ込めるしかなかった。
だが閉ざされていた記憶を思い出すと共に、彼への気持ちも取り戻せたのだ。
「愛してるわ」
彼の手に重ねながら彼を見つめた。ずっと恥ずかしくて言えなかった言葉。彼は惜しげもなく愛を囁いてくれたのに。
彼女の突然の告白に青年は呆然としていた。彼女は確かに自分と婚約したが、あの黒髪の青年の事が忘れられなかったはずだ。
「だが…キミはあの男が忘れられなかったのだろう?」
「…違うわ。確かに彼が好きだった。でも忘れさせてくれたのは貴方よ」
本当に?嬉しさと疑念が湧き起こる。一度は彼女の愛を信じた。プロポーズした日、婚約した日、確かに彼女の心を手に入れたと思っていた。
だが、彼女はあの神社で彼と抱き合っていたではないか。幸せそうに微笑みながら。そうだ…自分が黒髪の青年を殺した時も…彼に縋って泣いていた…。死にかけていた自分ではなく彼に…。
怜の中で少年の魂が、違う!誤解だ!と必死に訴えているが、青年は聞いてない。元々、彼は生前からあまり人の話を聞かないのだ。
「思っている事を言って」
「……」
「お願い」
かつての立場と逆だった。
「…神社で抱き合ってただろう…あの日」
「見てたの?声をかけてくれたら良かったのに」
「……」
「帰国と婚約の事を伝えてお別れしてたの。最後にハグをしてすぐ帰ったわ。ワタシなりにちゃんと心のケジメをつけたかったの。それに…」
チラと彼女は恨めしそうに青年を見上げる。
「ワタシの弟と彼の妹も一緒にいたのよ。気づかなかった?」
「え?」
全く気づかなかった。というより彼は彼女以外に興味がないから覚えてないだけかもしれない。
少年が、ひどい!そういうところだよ!と憤慨してる気配が伝わってきたが、目の前に彼女がいるので少年の声は無視した。
「だがオレがアイツを殺した時、オレよりもアイツに駆け寄っていた」
「それはそうよ。ココは危険だって、わざわざ知らせに来てくれたのに」
「…そうか。キミを奪いに来たんじゃなかったんだな」
青年の瞳から涙が零れた。
「…そうか。カレには悪い事をした。オレが殺さなければキミら姉弟だけでも…助かったかもしれないのに…」
青年は初めて黒髪の彼を殺めた事を後悔した。
愛しい人達の助かる道を己が潰した。思い込みが、疑心暗鬼が、愛しい人達の生命を奪った。嗚咽しそうになる声を必死に押さえ、涙する。
そんな彼を守るように、彼女は彼を優しく抱きしめる。
「…2人だけ助かってもアナタが一緒じゃないと意味がないの。ワタシ思い出したの」
もう離れない。離さない。願いを込めて彼を抱きしめる。
「殺されたんじゃないの。アナタが死んだって聞いて絶望して自分で…」
ビクッと彼の肩が震えた。もう声を抑えられなかった。
先程の見た悲劇を思い出し、華は嘔吐した。
◇◇◇
「華!?」
慌てふためく怜の声が聞こえてくる。
彼からすれば、気絶して目が覚めた途端にいきなり叫び出し、今度は正気に戻った途端に吐いたのだ。無理もない。
怜を心配させたくないのに、自分の身体が言う事を聞かなかった。
吐き気も涙も抑える事ができない。まるで心と身体だけ切り離されたみたいだ。
華の感覚はある意味、正しかった。華と同化した彼女が、華を御して表面に出たきたのだから。
「この部屋から出たいの」
華の姿をした彼女が、縋るように怜を見上げた。その瞳は碧い。
その変化にハッと息を飲む。呼応する様に怜の眼も碧く変化した。
「わかった」
彼女に呼応して青年の霊が、彼の表面に出てきた。そのまま華を横抱きにすると、彼女の部屋から出て隣室の少年の部屋に向かった。
少年のベッドにそっと華を横たわらせる。
「もう大丈夫か?」
愛しいものに触れるように、青年が華の頬を軽く撫でる。
青年にとっては生前と姿形は違っていても、今目の前にいるのは愛しい婚約者そのものだった。触れた所から、彼女の魂の気配が伝わってくるのだから。
「少し楽になったわ」
自分の頬に置かれたの彼の手に、彼女も自らの手を重ねた。
相変わらず彼女自身の名前も婚約者や弟の名前は思い出せない。
でもその手は彼女にとって間違いなく、愛しい人の手だった。
彼女が心を守るには、辛い記憶だけでなく、それに関わる全てを封じ込めるしかなかった。
だが閉ざされていた記憶を思い出すと共に、彼への気持ちも取り戻せたのだ。
「愛してるわ」
彼の手に重ねながら彼を見つめた。ずっと恥ずかしくて言えなかった言葉。彼は惜しげもなく愛を囁いてくれたのに。
彼女の突然の告白に青年は呆然としていた。彼女は確かに自分と婚約したが、あの黒髪の青年の事が忘れられなかったはずだ。
「だが…キミはあの男が忘れられなかったのだろう?」
「…違うわ。確かに彼が好きだった。でも忘れさせてくれたのは貴方よ」
本当に?嬉しさと疑念が湧き起こる。一度は彼女の愛を信じた。プロポーズした日、婚約した日、確かに彼女の心を手に入れたと思っていた。
だが、彼女はあの神社で彼と抱き合っていたではないか。幸せそうに微笑みながら。そうだ…自分が黒髪の青年を殺した時も…彼に縋って泣いていた…。死にかけていた自分ではなく彼に…。
怜の中で少年の魂が、違う!誤解だ!と必死に訴えているが、青年は聞いてない。元々、彼は生前からあまり人の話を聞かないのだ。
「思っている事を言って」
「……」
「お願い」
かつての立場と逆だった。
「…神社で抱き合ってただろう…あの日」
「見てたの?声をかけてくれたら良かったのに」
「……」
「帰国と婚約の事を伝えてお別れしてたの。最後にハグをしてすぐ帰ったわ。ワタシなりにちゃんと心のケジメをつけたかったの。それに…」
チラと彼女は恨めしそうに青年を見上げる。
「ワタシの弟と彼の妹も一緒にいたのよ。気づかなかった?」
「え?」
全く気づかなかった。というより彼は彼女以外に興味がないから覚えてないだけかもしれない。
少年が、ひどい!そういうところだよ!と憤慨してる気配が伝わってきたが、目の前に彼女がいるので少年の声は無視した。
「だがオレがアイツを殺した時、オレよりもアイツに駆け寄っていた」
「それはそうよ。ココは危険だって、わざわざ知らせに来てくれたのに」
「…そうか。キミを奪いに来たんじゃなかったんだな」
青年の瞳から涙が零れた。
「…そうか。カレには悪い事をした。オレが殺さなければキミら姉弟だけでも…助かったかもしれないのに…」
青年は初めて黒髪の彼を殺めた事を後悔した。
愛しい人達の助かる道を己が潰した。思い込みが、疑心暗鬼が、愛しい人達の生命を奪った。嗚咽しそうになる声を必死に押さえ、涙する。
そんな彼を守るように、彼女は彼を優しく抱きしめる。
「…2人だけ助かってもアナタが一緒じゃないと意味がないの。ワタシ思い出したの」
もう離れない。離さない。願いを込めて彼を抱きしめる。
「殺されたんじゃないの。アナタが死んだって聞いて絶望して自分で…」
ビクッと彼の肩が震えた。もう声を抑えられなかった。
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