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第二章

第一話 この世界の事

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 故郷のハーネスト村から出発した僕等は、テオドール方面の山道の前で一度休憩に入った。
 ここまで来るまでに、あの奴隷商人の馬車牢を使わして貰っていたからだ。
 だが、これから進む山道では馬車の類は使えないので徒歩で移動することになった。
 テオドール温泉村に行くルートは3か所あるが、山道を越えるのが一番早いルートだ。
 その他の2つは、一度海に出て迂回するルートと、もう1つは山の周りを沿って進むルートだった。

 「海のルートだと、マクファーレン港に戻らないといけないからなぁ。あそこに戻ると、また厄介事に遭うかも知れない。」

 なので山越えのルートを選んだのである。
 丁度山の麓には、数件の宿があるので…そこの宿で泊る事になったのだった。

 「馬車の中は堅くてお尻が痛くなったわ!」
 「貴族の馬車じゃなく、奴隷を運ぶ馬車だから運転席以外は堅くて平らな床になっているからね。」
 「ダーネリアは何度かルーナリアに回復魔法を掛けて貰っていなかったか?」
 「それでも、痛いものは痛いのよ。」

 確かにこの馬車牢は、運転席以外は絶望的だ。
 本来なら両親に渡して処分をして貰おうと思っていたんだけど、作りが頑丈で立派な馬車を処分する位なら僕に使えば良いと言って貰ったのだった。
 別な街とかで時間があったら改造でもしてみるか!

 「宿で休むと言っても、まだ夕方じゃないしな。」
 「確かに、このまま寝るには早すぎる。」
 「それなら色々知りたい事があるんだけど、良いかな?」
 「そうね、今後の旅の目的は聞いたけど、私もダーネリアも世間の知識に乏しいから…」
 「良いけど、何が聞きたいの?」
 「ハーネスト村で元勇者の父親に勇者になると宣言していたけど、勇者って他の国にもいるんだよね?」
 「あぁ、世界の7つの大陸にそれぞれ国があって、それぞれの国には勇者が存在する。現在はこの国ともう1つ国が勇者不在だったかな?」
 
 これは勇者パーティーにいる時に、書類整理をしていた時に表記してあった物を見たから知っていた。
 それぞれの勇者達は、必ず二つ名を持っていて、レベルも70以上と高レベルだった。

 「勇者がいるという事は、当然魔王もいるのよね?」
 「あぁ、いるぞ!魔王は世界の中心にある魔の大陸の何処かに城を築いているという話だ。」
 「なんか漠然としているな?」
 「仕方ないよ、そこまで辿り着いた勇者パーティーが存在しないからね。ただ、魔の大陸にあるというのは確からしい。」
 
 勇者になる条件は、レベル70以上と特定の条件を満たした場合のみで、国王から勇者認定を受けて勇者になれる。
 ただ、この特定の条件というのが良く解らなかった。
 トールもその辺の事は教えてくれなかったしな。
 ただ、トールが勇者になれたくらいだから…特に難しいという事ではないのだろうと思うが?

 「魔王って1人だけだよね?」
 「うん…但し、配下がやたら多いらしい。参謀2人に三元将、四天王に八魔将…後なんだっけか?」
 「その配下は強いの?」
 「あぁ、かなりな…未だに勇者に認定されている者でも、魔王の配下相手に倒したという話は聞いた事が無いからね。」

 他の国の勇者でレベル157でも、配下を倒したという報告はされていない。
 魔王の配下は魔獣の類ではなく、魔族という話なので…相当に手強いのだろう。

 「ちなみに、魔王の名前って何ていうの?」
 「知らん!以前魔王に関する書類を見たけど、魔王の名前に関する事は一切書かれていなかった。」
 「それだと、本当に魔王がいるのかが怪しいわよね?住処も魔大陸の何処かという話だし…」
 「世界に住む人達に宣戦布告をしたという話だけど、名前は一切明かしていないという話だからね。まぁ、魔王討伐は勇者に任せて、僕達はグルメ旅行を続けられればそれで良い。」
 「仮に…世界を旅している時に、魔王の配下と接触したりする時もあるんじゃないのかな?」
 「その可能性は相当低いだろうな。それこそ街中を歩いていて、白金貨を拾う位に低いだろう。僕達のグルメ旅行は、あくまでも街の中や名産品の多い場所に出向くから、魔王の配下が街の領主となって務めているとかじゃない限りは会う事も無いだろう。」

 可能性は完全に無いとは言い切れないかもしれないが、それこそ、探して見付かるものでもないだろう。
 何か情報を得れば別だろうけど。

 「他にも何か聞きたい事はあるか?」
 「なら自分が、この世界に聖剣や魔剣の類ってあるのか?」
 「いにしえの伝承にある聖剣や魔剣の事を言っているのなら、あるかもしれないが…勇者認定された者が所持しているという話も聞かないしな。どこかの国で保管されているという事はあるかもしれないけど、大っぴらには公表しないだろう。」
 「なんで?」
 「魔王が自分を殺す剣が存在する国をいつまでも放って置く事はまずあり得ないだろうからな。伝承の時代には数多くの聖剣や魔剣があったという話らしいけど、今となっては知る由もないしね。」
 「テイト様がもしも聖剣や魔剣を手に入れたらどうしますか?」
 「魔王討伐を掲げている勇者に渡すよ。何度も言うけど、僕の旅の目的はグルメ旅行であって、魔王討伐では無いからね。」

 僕も冒険者になりたての頃は、いつかは聖剣や魔剣を手に入れたいと思っていた時期もあったけど。
 国からのおびただしい資料を目の前にすると、聖剣や魔剣を持っていたら絶対に厄介事に巻き込まれるだろうしね。
 国の為に魔王を倒せ!…とか言われて、何かしらの仕事を押し付けられるだろうな。

 「自分は…聖剣や魔剣の類はいつか手にしてみたいと思う。テイトはどうだ?」
 「僕は特に欲しいとも思えないが、そうだな?ドラゴンの肉を切り分けられる様な位の鋭い切れ味だったら欲しいかも。」
 「テイトにとっては、聖剣や魔剣の類は包丁扱いか?」
 「切れ味が良いに越した事は無いからな。」

 ミスリル魔鉱石の剣でも、それなりの切れ味は備えている。
 これでも十分に魔剣の類といっても過言では無いとは思うが?

 「他にはもう無いか?」
 「今の所は思い付かないわ!」
 「ダーネリアは?」
 「私もある程度聞けたから良いかも。」
 「そういえば、ブレイドが以前いたパーティーでは…リーダーが勇者の座を狙っていたとかってあるか?」
 「恐らくは無いだろう。あいつが勇者になれるとも思えんし、何より性格が悪いからな。」
 「仲間を見捨てて逃げる様な性格の奴に勇者は選ばれないか。」

 それを考えると、トールは良く勇者になれたな?
 まぁ、アイツが勇者に返り咲く事はまずないだろう。
 自国で失敗しているからな、例え条件が揃っていても…信用は無いだろうし。

 そんな事を話していると、いつの間にか空が赤みを差していた。
 僕達は宿の食事を摂ってから、早めに寝る事にしたのだった。
 何故なら、翌日からの山越えは…相当厳しい物になるからだった。
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