青春時代小説 小説一覧
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娘仇討ち、孝女千勢!妹の評判は瞬く間に広がった。方や、兄の新平は仇を追う道中で本懐成就の報を聞くものの、所在も知らせず帰参も遅れた。新平とて、辛苦を重ねて諸国を巡っていたのだ。ところが、世間の悪評は日増しに酷くなる。碓氷峠からおなつに助けられてやっと江戸に着いたが、助太刀の叔父から己の落ち度を酷く咎められた。儘ならぬ世の中だ。最早そんな世とはおさらばだ。そう思って空を切った積もりの太刀だった。短慮だった。肘を上げて太刀を受け止めた叔父の腕を切りつけたのだ。仇討ちを追って歩き続けた中山道を、今度は逃げるために走り出す。女郎に売られたおなつを連れ出し・・・
文字数 28,043
最終更新日 2025.11.10
登録日 2025.07.09
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明治初期の街道筋。
道に迷った先の立場茶屋。足を痛めたおこうは楽しそうに茶屋の亭主と話している。お店から離れたのが嬉しいのだ。一方、左吉は虫の居所が悪い。弥之助の企みでお店を追い出された。江戸が東京となり、洋物流行りのこのご時世だ。和菓子屋なんぞ続くものか。あんこ職人の左吉の腕など不要だ。そう弥之助は思っているに違いない。国境いの茶屋から見える秀峰富士と横浜の港の賑わい。
洋物なんかに負けるものか。新しいあんこの菓子を拵えてやる・・・
文字数 36,030
最終更新日 2025.10.30
登録日 2025.06.12
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江戸麹町の乾物問屋、讃州屋の中二階。元々物置だった屋根裏を間仕切って、丁稚と平次郎が使っている。
屋根裏部屋の明り取りの小さく丸い虫籠窓。引き戸を閉じれば真っ暗だ。そんな飼殺しの身の次男坊。近所の御隠居から、「中二階は厨子二階と言って、その家のお宝を置いておく場所だ。だから平ちゃんを置いておくんだよ」そう諭されて何となく納得した。「ただし、お侍様で成り立っている町だ。往来を見下ろしちゃいけない」以来、明り取りの虫籠窓から、一寸ばかり覗く空だけ仰いで生きてきた。
以前はこの部屋を遊び仲間が集い来ては賑わした。ところが今じゃ、顔を出すのは幽霊だ。
平次郎だけが取り残された。親の金を頼りに、ただ虫籠窓の中に巣くった飛蝗だ。
「年相応の形をしろ」とは説教も喰らうが、しかしこんなご時世だ。恰好でもつけなきゃやってられない。往来の人を見下ろしちゃいけないから空を見る。丸く小さい虫籠窓、その向こうにどこまで続くやら、青い空が少し・・・
文字数 73,114
最終更新日 2025.08.21
登録日 2025.04.19
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