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<水無瀬葉月>
プレゼントを渡そう
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だけど、い、今の声は、ひょっとして静さん!?
男の人がサングラスを外す。間違いなく静さんだ! サングラスと黒髪のウィッグで全然わからなかったよ。
「まったく。なんで受付嬢さん相手に惚気てるの。すいませんねぇ。この子、盲目的に懐いちゃってるから」
惚気じゃ無いです。事実を言っただけだから。
「あなたも何をお客様相手に根掘り葉掘り聞いてるの? 失礼でしょう」
いかにも仕事ができそうな雰囲気の鋭い目をした受付嬢さんがウェーブの人を注意した。
続いて僕に一礼をくれる。
「申し訳ございません、新人ですのでどうぞご容赦ください。ネクタイでしたら向かって左側の西口に様々なブランドの品を取り揃えたギフトコーナーがございます」
「ありがとうございます……!」
ウェーブの人は「失礼致しました。喜んでもらえるといいですね」と笑ってお辞儀をしてくれた。それから、いたずらっ子みたいに笑って鋭い目の人に謝罪していた。
「まー、葉月君みたいな子がプレゼント買いに来たら相手はどんな奴か興味を持つなってのが無理だろーねぇ。案内図の前で目をグルグルさせてて面白かったよ。真剣に悩みすぎ」
うぅ、僕、そんなだったのか。恥ずかしいなぁ。
入り口は二重ドアになっている。静さんが開けてくれたドアに再び滑りこんだ。
「静さんは何を買いにきたんですか? こんな場所で会えるなんてすごい偶然ですね」
「偶然じゃないよ。葉月君が遼平にプレゼントするって聞いたから見物に来たの。通りに入った時から後ろをつけてたんだよ。気が付かなかった?」
全然気が付かなかった……!
「葉月君が行くとしたらここかなーって当たりをつけたんだけど大正解だったな。プレゼントはネクタイ?」
「はい! 静さんが来てくれて心強いです。遼平さんに似合いそうな柄を一緒に選んでください」
「それは止めとくよ。遼平に恨まれそうだからな。葉月君が似合うって思ったネクタイをプレゼントすればいいんだよ。君が選びさえすれば、遼平は何だって喜ぶからさ」
二本松さんと同じようなことを言われてしまった。
僕、ファッションセンスが皆無だから一緒に選んで欲しかったんだけどな。
ネクタイ売り場は想像以上に大きかった。テーブルの上にオシャレに並べられた物、柄が見えるように小さな棚に並べられた物、釣り下げられた物と陳列も多種多様だ。
わー。多すぎて選べない。目移りしてしまうよ……。
「静さん」
「何?」
「ヒントだけでも」
せめて、どのブランドが好きかだけでも教えてください。
「ノーヒントです。あ、これなんか良いんじゃない?」
静さんが手にしたのは蛍光ピンクと蛍光黄色の水玉模様だった。
ついついじとりと睨みつけてしまう。
うーんうーん、斜めストライプが入ったのが定番っぽくて無難かな? 茶色も落ち着いた感じでいい。ネクタイに直接柄が刻み込まれてるのもカッコいいなぁ。どれがいいんだろ。悩むぞ。
「いらっしゃいませ。どういったものをお探しですか?」
男性スタッフさんが声を掛けてくれた! やった、救世主だ。アドバイスを貰おう。
「あの」
「お気使い無く。この子に選ばせたいので」
僕の前に割り込んだ静さんがあっさりとスタッフさんを追い払ってしまった……。なんてことだ。
こうなったら自力で頑張るしかない。
うー。
遼平さんの姿を思い描きつつ、二週目の売り場巡りを始める。
あ。
一周目では目に止まらなかったネクタイが不意に存在を主張した。
無地の深緑のネクタイ――シンプルな品なのに上品で優しい遼平さんのイメージにぴったりだ!
「これにします!」
静さんは良いとも悪いとも言ってくれなかった。
人が悪くニヤニヤしてる様子にちょっと心がくじけかけたものの、多分、これ以上のネクタイは無い。
レジに持って行って会計してもらう。
「21000円です」
ぐぅ、千円以上も予算をオーバーしてしまった。税抜き金額は二万円以内だったのに消費税が憎い。
プレゼント包装は凄くオシャレだった。
小物入れにも使えそうな黒のボックスに入れてくれたんだ。
遼平さん、喜んでくれるといいなぁ……!
「随分奮発したねえ」
「はじめてお給料を貰ったから、遼平さんにお礼がしたくて」
紙袋を両手で抱えて静さんを見上げる。
「初給料でプレゼントかぁ。いいねぇそういうの。昔を思い出しちゃう」
「静さんも誰かにプレゼントしたんですか?」
「オレは貰う方。こう見えても結構もてるんだから」
「こう見えてもって……普通にもてるようにしか見えませんけど」
遼平さんも静さんも二本松さんもかっこいいもん。
「遼平さんも貰う方ですよね」
「いやー、あいつは好きになったら一直線だから甲斐甲斐しくプレゼントする方だよ。あんな顔してるのに、付き合って一周年記念なんてのもきっちりお祝いしちゃうんだ」
付き合って一周年記念……?
心のどこかがギシリと痛んだ。
遼平さんに、そんなに長くお付き合いしてた人がいたんだ。
男の人がサングラスを外す。間違いなく静さんだ! サングラスと黒髪のウィッグで全然わからなかったよ。
「まったく。なんで受付嬢さん相手に惚気てるの。すいませんねぇ。この子、盲目的に懐いちゃってるから」
惚気じゃ無いです。事実を言っただけだから。
「あなたも何をお客様相手に根掘り葉掘り聞いてるの? 失礼でしょう」
いかにも仕事ができそうな雰囲気の鋭い目をした受付嬢さんがウェーブの人を注意した。
続いて僕に一礼をくれる。
「申し訳ございません、新人ですのでどうぞご容赦ください。ネクタイでしたら向かって左側の西口に様々なブランドの品を取り揃えたギフトコーナーがございます」
「ありがとうございます……!」
ウェーブの人は「失礼致しました。喜んでもらえるといいですね」と笑ってお辞儀をしてくれた。それから、いたずらっ子みたいに笑って鋭い目の人に謝罪していた。
「まー、葉月君みたいな子がプレゼント買いに来たら相手はどんな奴か興味を持つなってのが無理だろーねぇ。案内図の前で目をグルグルさせてて面白かったよ。真剣に悩みすぎ」
うぅ、僕、そんなだったのか。恥ずかしいなぁ。
入り口は二重ドアになっている。静さんが開けてくれたドアに再び滑りこんだ。
「静さんは何を買いにきたんですか? こんな場所で会えるなんてすごい偶然ですね」
「偶然じゃないよ。葉月君が遼平にプレゼントするって聞いたから見物に来たの。通りに入った時から後ろをつけてたんだよ。気が付かなかった?」
全然気が付かなかった……!
「葉月君が行くとしたらここかなーって当たりをつけたんだけど大正解だったな。プレゼントはネクタイ?」
「はい! 静さんが来てくれて心強いです。遼平さんに似合いそうな柄を一緒に選んでください」
「それは止めとくよ。遼平に恨まれそうだからな。葉月君が似合うって思ったネクタイをプレゼントすればいいんだよ。君が選びさえすれば、遼平は何だって喜ぶからさ」
二本松さんと同じようなことを言われてしまった。
僕、ファッションセンスが皆無だから一緒に選んで欲しかったんだけどな。
ネクタイ売り場は想像以上に大きかった。テーブルの上にオシャレに並べられた物、柄が見えるように小さな棚に並べられた物、釣り下げられた物と陳列も多種多様だ。
わー。多すぎて選べない。目移りしてしまうよ……。
「静さん」
「何?」
「ヒントだけでも」
せめて、どのブランドが好きかだけでも教えてください。
「ノーヒントです。あ、これなんか良いんじゃない?」
静さんが手にしたのは蛍光ピンクと蛍光黄色の水玉模様だった。
ついついじとりと睨みつけてしまう。
うーんうーん、斜めストライプが入ったのが定番っぽくて無難かな? 茶色も落ち着いた感じでいい。ネクタイに直接柄が刻み込まれてるのもカッコいいなぁ。どれがいいんだろ。悩むぞ。
「いらっしゃいませ。どういったものをお探しですか?」
男性スタッフさんが声を掛けてくれた! やった、救世主だ。アドバイスを貰おう。
「あの」
「お気使い無く。この子に選ばせたいので」
僕の前に割り込んだ静さんがあっさりとスタッフさんを追い払ってしまった……。なんてことだ。
こうなったら自力で頑張るしかない。
うー。
遼平さんの姿を思い描きつつ、二週目の売り場巡りを始める。
あ。
一周目では目に止まらなかったネクタイが不意に存在を主張した。
無地の深緑のネクタイ――シンプルな品なのに上品で優しい遼平さんのイメージにぴったりだ!
「これにします!」
静さんは良いとも悪いとも言ってくれなかった。
人が悪くニヤニヤしてる様子にちょっと心がくじけかけたものの、多分、これ以上のネクタイは無い。
レジに持って行って会計してもらう。
「21000円です」
ぐぅ、千円以上も予算をオーバーしてしまった。税抜き金額は二万円以内だったのに消費税が憎い。
プレゼント包装は凄くオシャレだった。
小物入れにも使えそうな黒のボックスに入れてくれたんだ。
遼平さん、喜んでくれるといいなぁ……!
「随分奮発したねえ」
「はじめてお給料を貰ったから、遼平さんにお礼がしたくて」
紙袋を両手で抱えて静さんを見上げる。
「初給料でプレゼントかぁ。いいねぇそういうの。昔を思い出しちゃう」
「静さんも誰かにプレゼントしたんですか?」
「オレは貰う方。こう見えても結構もてるんだから」
「こう見えてもって……普通にもてるようにしか見えませんけど」
遼平さんも静さんも二本松さんもかっこいいもん。
「遼平さんも貰う方ですよね」
「いやー、あいつは好きになったら一直線だから甲斐甲斐しくプレゼントする方だよ。あんな顔してるのに、付き合って一周年記念なんてのもきっちりお祝いしちゃうんだ」
付き合って一周年記念……?
心のどこかがギシリと痛んだ。
遼平さんに、そんなに長くお付き合いしてた人がいたんだ。
応援ありがとうございます!
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