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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【解決篇】

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 縁が来ていないという事実に妙な不安は感じるものの、坂田をあまり待たせるわけにもいかない。アンダープリズンの回線はあまり使いたくはないが、今回のようなケースは、回線を私的理由で使用することにはあたらないであろう。なんせ、坂田自身が縁を含めた倉科達との接見を希望しているのだから。縁の存在の有無で坂田の機嫌が変わり、事件の進展が左右されるのであれば、私的問題ではなく公的問題であるといえよう。

 神座の街を進み、ごみ捨て場に群がるカラスに馬鹿にされながらも【人妻ヘルス】の前までやってきた倉科達。ここからはいつもの手順を踏みつつ、アンダープリズンへと潜らねばならない。また融通の利かない堅苦しい手順を踏まねばならないと思うと気が重くなる。せめて、もっと手順を簡略化して欲しいものだ。

 文句を垂らしたところで、そこはお役所仕事。例のごとく面倒な手順を踏みつつ、確実に坂田の元へと近付く倉科と尾崎。アンダープリズンに潜る際に、縁の所在を問われてしまったが、そこは適当にごまかしてやった。それでも、ちょっとした押し問答はあったのだが――。型にはまることばかり優先して、ちょっとしたイレギュラーが起きると、確認やらなんやらで手間を取る。それだけセキュリティーを徹底しているということなのであろうが、いちいち堅苦しくて息が詰まる。

 中に入ると、いつものように中嶋が顔を出した。そして、中嶋に案内をされて階段を降り、何枚もの扉を潜り、また階段を降りを繰り返す。ようやく鉄格子が並ぶ通路までやってくる頃には、すっかりと疲れてしまっていた。肉体的にではなく精神的にだ。ここは人の生気を吸い取ってしまうような、独特の雰囲気に包まれている。その最深部で生活をしている坂田は、さしずめ深海魚といったところか。水深の浅いところで生きている魚が、深海へと潜れば不調をきたす。本来ならば、ここは普通の人間が足を踏み入れて良い場所ではないのかもしれない。

 いつものごとく中嶋から模擬弾の入った拳銃を渡され、それを尾崎に持たせると、二人は鉄格子を幾つも潜り、坂田の待つ鉄扉の前へとたどり着く。今回は特に進展がないため、資料は用意していない。口頭でのやり取りが主になることであろう。

「いいか尾崎。いくぞ?」

 鉄扉の前で心の準備をすると、認可証を認証機にかざして最終的な認証を得る倉科。尾崎は特別認可であるため、特に何かをするでもなく、スライドした鉄扉の向こう側へと拳銃を構えた。
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