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 それは、あくる晴れた朝の出来事だった。

「な、な、な、」

 一人の男が、朝帰りで妻の元へ戻ってきました。
 玄関には男の靴、ヤケに綺麗に片付いている部屋、二人の寝室に寝る妻と、見知らぬ男の姿。

「か、香織…!」

 男の悲痛な声に、ベッドに寝ていた女が目を覚ます。

「…なにを…して…」
「きゃっ…」

 慌てて自分の身を隠す妻。

「だ、誰なんだ、この男、………!」

 そこまで言って、男…広瀬和樹かずきは妻の横で眠る男が誰なのか、分かった。

「…笹野さん…?」
「……ん…」

 名前を恐る恐る呼ぶと、男も目が覚めたようだ。

「…お?……やっべ、もう朝か!」

 妻の横で眠っていた男は笹野陽一よういち、和樹の会社の先輩だった。

「あ、香織」

 笹野が平然と言う。

「寝坊したわ、悪かったな。また連絡する」

 そう言うなり、目にも止まらぬ早さで服を着て出ていってしまった。その間、和樹は呆然とその光景を見ることしか出来なかった。
 信じられない光景に、力が抜けていた。
 もう一度力が入る頃には、妻の香織が服を着て気まずげにこちらを見ていた。

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