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社交も外交もできない魔法オタクの第三王女クラリスは、優秀な兄を警戒する大国への「人質」として嫁がされた。
嫁ぎ先の宮廷では、もう噂になっている。「またシェルナの姫か」と。百五十年前、同じ国から嫁いだ姫が、輿入れの途中で消えているのだ。
人質で、不吉で、期待されるものは何もない。ならばと彼女が向かったのは、八百年間誰にも読めなかった古代魔法の書庫だった。
魔力は人並み。けれど、式を読む目だけは誰にも負けない。
凍える騎士を救う暖房具。魔獣の通り道を暴く追跡の網。彼女の趣味が形になるたび、国が少しずつ動きはじめる。そして魔獣の鱗の裏に刻まれた古い文字が、八百年前に封じられたはずのものへと繋がっていく。
剣の国の若き王は、妻が面白いから式を書いているだけだと知っている。知っていて、隣から離さなくなる。
のちの史書は、彼女を「精霊姫」と記す。社交に出ず、宮廷に姿を見せず、城の奥で古代の式を読んでいた王妃。どこから来たのかは、ほとんど書かれていない。
これは、その書かれなかった部分の話。
文字数 389,062
最終更新日 2026.11.07
登録日 2026.08.02
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