あおしぃ

あおしぃ

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ファンタジー 連載中 短編
「料理人は国の役に立たない」  その一言で、俺は十年間勤めた王宮を追い出された。  名前はルーク・アッシュフォード、三十二歳。外れ職業の料理人。  騎士でも魔法使いでもない、ただ飯を作るだけの男。  怒鳴りもせず、泣きもせず、仕込みの引き継ぎだけ済ませて城を出た。  荷物は包丁二本と砥石だけ。行き先は、辺境。 ---  追放の日の夕方、路傍で行き倒れの少女と出会った。  腹が減っているのか——なんとなく声をかけて、あり合わせの食材で飯を作った。  乾燥豆と塩漬け肉と野草。大した料理じゃない。  「……おいしい」  その一言で、俺は気づいた。  十年間、一度も言われなかった言葉を、今日初めてもらったことに。 ---  流れ着いた辺境の村は、貧しくて、土地が痩せていて、よそ者に冷たかった。  それでも俺は飯を作り続けた。  するとおかしなことが起きた。  魔物が村に近づかなくなった。  枯れかけた畑が、一夜で青くなった。  病に伏せっていた老人が、翌朝けろりと起き上がった。  スキル鑑定士いわく——「料理付与、神級。前代未聞です」。  そんなものがあったのか。俺にはよく分からないが、旨けりゃいいんじゃないか。 ---  一方、俺を追い出した王国では、じわじわと食事が崩壊し始めていた。  宮廷料理は栄養こそあるが「何か」が足りない。  騎士の体調が落ち、王族が床に伏せり、国中に干ばつが迫る。  やがて王都から早馬が来る。  「料理人ルークを王都へ連行せよ」という勅命状を携えて。  連行、ですか。  今夜の仕込みが終わっていないんですが。 ---  静かな料理人と、懐いてくる孤児の少女。  罪悪感を抱えた元同僚の騎士。  頑固だけど公正な辺境の村長。  そして、自分の判断ミスに気づき始める元上司。  誰も怒鳴らない。誰も泣き崩れない。  ただ、飯が旨い。それだけで、世界が少しずつ変わっていく。  食材の声を聞き、火加減を整え、腹が減った人間に食わせる。  それだけを十年間やってきた男の、静かな逆転の話です。 ---  強さも復讐も関係ない。  ただ、誰かのために飯を作る——それだけが、最強だった。
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文字数 13,965 最終更新日 2026.06.29 登録日 2026.06.29
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