道を極める

群雄割拠のラーメン戦国時代を駆け抜ける戦略家

2017.11.07 公式 道を極める 第31回 生田智志さん

四畳半から始まったラーメンドリーム

生田氏:01年、六本木に初出店を果たし、その後5〜6店舗を展開し仕事が順調に進んでいた矢先、自分の未来は、またしても行動によって大きく変わりました。赴任以来オープン続きで、まとまった休みがなかなか取れずにいたのですが、ある日急にニューヨーク(N.Y)へ行く機会が訪れました。

おりしも9・11の米国同時多発テロの冷めやらぬ頃で、連日の報道でずっと気になっていた場所でした。テレビやネットから流れてくる情報ではなく、実際にN.Yがどうなったのか、この目で確かめたいと思っていたんです。17歳の時に親父を亡くしたことも、自分が「死」を意識した考えや行動をする理由でもありました。

東京での責任者、エリアマネージャーとしての仕事もあり、前もって休みを取れるほどの余裕もなく、急にできた時間に、「今しかない!」と考え、とりあえずチケットだけを手に向かったんです。

当時はN.Yだけでなく世界全体がテロへの恐れと警戒からか異様な空気に包まれていたような時期でした。そうした意味で、それまで以上に注目されている街でしたが、自分の目に映ったN.Yの人々は、とにかく逞しく眩しいものでした。悲しい出来事にも負けず、皆それぞれ自分の仕事を通じて、ただ前を見て生きていこうとする姿勢に、自分は仕事を通じて一体どのように関わっていけるのか、と考えるようになったんです。それからは、いち会社員としてお店を大きくするとか、そういうことではなく、自分の生き方を考えた仕事を意識するようになり、その後もその気持ちの確認のために、何度かN.Yを訪れるようになりました。

――未来の白地図に、少しずつ色が塗り足されていく。

生田氏:行動して、地図を塗っていく。それが結果として、今の「ラーメン凪」に繋がっているんです。結局、その数年後に私は東京でも知名度を上げた超人気ラーメン店を飛び出し、「自分の仕事」によって社会と関わっていきたいと行動を起こすことになりました。

当時、東京進出に成功し、会社も大きくなり、自分の仕事も、役割が少しずつ変化していきました。新しい事というよりも、ルーティン化する作業に、「自分じゃなくてもいいのでは」と考えるようになってしまったんです。こうした職場と自分の仕事像へのミスマッチの経験が、今、私が「働き方」を考える理由でもあります。

「ラーメン屋をイチからはじめる」。安定や高収入とは正反対の行動だったと思いますが、そこにベクトルを向けてしまうと、自分の仕事ではなくなってしまうと感じたんです。「無謀だ」と何度も言われました。最初は、現常務の夏山と二人で四畳半の小さなアパートに住みながら、寸胴鍋二つを用意して、ひたすらラーメンづくりの日々。お金も技術も、何もないところから始まりましたが、不思議と苦ではありませんでした。

ある時、歌舞伎町のゴールデン街にあるバーを、夏山の友人から間借りさせてもらい、そのお店の休みである火曜日限定でラーメン屋をオープンしました。当初半月に一度だったペースが、だんだんと週に一度、週に2、3日とどんどん増えていったんです。

――「ラーメン凪」は、少しずつ進化していった。

生田氏:何でもそうだと思いますが、最初から完成したものはありません。ラーメン凪」のこだわりも、まわりの状況判断と工夫の中で、徐々にでき上がっていきました。ご存知の方もおられるかと思いますが、はじめ「ラーメン凪」のスープは、とんこつでした。とんこつはすでに極めているお店もあるし、差別化しなければ数あるうちのひとつで埋もれてします。「ここのラーメンが食べたい」と思ってもらえるものでなければダメだと。「こだわり」は、そんな周りの状況へ対応することでも生まれました。

そうして試行錯誤の結果、変えるべきところは変えながら進んできた結果の一つひとつが、間借り経営から、実店舗、さらに海外出店と今の「ラーメン凪」に繋がっていったんです。

 「何もないところから風を起こす」 
凪スピリッツの終わりなき挑戦

――たくさんの「嵐」を起こしてきました。

生田氏:おかげさまで、ラーメンはもちろん、私たちの行動自体が多くのメディアに取り上げられ、結果、またたくさんのお客さまに「私たちの一杯」を届けられることができる。こうした循環ができたことに喜びを感じていますが、満足はしていません。

刻一刻と変化する時代に、私たち飲食店も日々探求と進歩がなければ取り残されてしまいます。普遍的な価値観で物事を見つつ、時代の変化に対応できる「チカラ」が必要。ある意味、じっとしていられない自分にはいい時代だと思います。

――「凪」……、次の嵐の前の静けさ。

生田氏:まだまだ終わりじゃないんです。私としてはようやく始まったばかり。実は今、新たにアメリカの某所で開店する準備をしています。数年かけてやってきたのですが、ここ最近のアジア圏での出店と、場所もコンセプトも大きく異なります。この出店も、何度も修正しながら進めてきました。時には、自分の出した指示でさえ、間違っていた場合には謝りながら(笑)、躊躇なく変えていく。最初に考えていたものよりも、周りの状況の方が正しい時は素直に認める。最初と大きく違っていたっていいと思います。

未来の地図は大きく描いてもいい。それに見合う行動、必要な工夫を積み重ねていくしかないと思うんです。これからもそうして工夫と行動を重ねながら、やるべきことを日々問い続け、「人とお店」が成長し、さらにはお客さまへ熱き「凪スピリッツ」を届けられる、そんな“面白いラーメン屋”を目指し続けていきます。

 

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アルファポリスビジネス編集部は厳選した人物にインタビュー取材を行うもので、日本や世界に大きく影響を与える「道」を追求する人物をクローズアップし、その人物の現在だけでなく、過去も未来の展望もインタビュー形式で解き明かしていく主旨である。編集部独自の人選で行うインタビュー企画は、多くの人が知っている人物から、あまり知られることはなくとも1つの「道」で活躍する人物だけをピックアップし、その人物の本当の素晴らしさや面白さを紐解いていく。

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