あらゆるスキマ時間で集中学習! 無駄ゼロ独学術

「つらい資格の勉強」を継続させるたった一つのコツ

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私のトラウマについて

前回とも重複しますが、私が転職したころの話をします。
新聞社を辞めて試験にも挫折し、中小規模の化学メーカーに転職しました。新聞社と比べて労働環境は大きく改善し、土日はしっかり休めるようになりました。
記者は平日深夜まで働き、土日祝日も事件事故が発生すれば、すぐに行かなければなりません。いまでは信じられないことですが、休みも基本的に勤務地の埼玉県から出ることはできませんでした。そして、突発的な出来事があるたび携帯電話で呼び出され、事件現場へ急行します。土日も関係ないので、曜日の感覚はほとんどなくなります。
それに比べると、しっかり休めて呼ばれることはないサラリーマンは天国のようでした。平日は仕事を終えてから格闘技を練習したり、飲み会に行ったりします。休みになると、午前は格闘技の練習をして、話題のラーメンを食べに行き、夜遅くまでお笑い番組を見ながらゲームをする――好きなことばかりができる時間を得ました。
その代償に、日曜の夜が憂鬱になりました。いわゆるサザエさん症候群です。私の場合は、『情熱大陸』が始まるあたりで心がざわざわし始め、「明日から仕事か……」と悲しい気持ちになりました。

出勤すると、上司からの細かいチェックが待っています。恐ろしいのは、仕事自体は暇だということでした。経営企画部門に所属していたものの、定型的な資料作りが主な仕事で、本気で働けば1~2日で終わってしまいます。そのたびに仕事を探し、それもなくなると、過去の資料を読んだり、扱う商品の相場を調べたりして時間をつぶすのですが、やることはすぐになくなります。そんなとき決まって、「いしどーくん、いま何をやっているんや?」と真正面に座っている上司から、関西弁でチェックが飛んでくるのです。やることはないので、返答はしどろもどろになります。そうすると、決まって「ちゃんと仕事をしろ」と雷が落とされるのでした。
そんな日々が続き、次第に上司の顔を見るのが嫌になりました。いまになって振り返ると、その環境はチャンスも多いものでした。給与や勤務条件に不満はなかったので、もっと積極的に他部署と関わったり、製造技術の勉強をしたりすれば、いくらでも仕事を楽しくできたと思います。しかし当時の私は未熟で考えも甘かったので、転職の道を選んでしまいました。

次の転職先である海運会社にも同じタイプの上司がいました。仕事量は適切で給与水準も上がったものの、人間関係は改善されません。その業界がはじめての私は、用語や社内ルールの理解が甘く、よく叱責されました。前と同じように管理され、日々心労がたまっていきました。
しかし、それ以上につらかったのは「夜のお誘い」でした。上司は一人で食事をしたくない性格で、もちろん独身のため、残業が一段落する決算後にはたびたび飲み会が開催されます。仕事が終わってさっさと帰りたいのに、終電まで独演会に付き合うことになります。数回に一度のペースで、行きたくないスナックやフィリピンパブに連行されることもありました。定時から終電まで、説教を交えた仕事の話や、まったく興味のない登山の話を繰り返され、カラオケにも合いの手を入れなければなりません。
ほぼ労働のような気分で6時間以上も拘束され、料金もしっかり徴収されます。トータルの出費が1万円を超えることもあり、罰金を払って苦行に耐えるような感覚でした。一青窈の『ハナミズキ』がいまもトラウマです。御徒町のさびれた小さいスナックで、何度も何度も聞かされる羽目になりました。どんなにうまい人が歌っていても、テレビからこの曲が流れてくると反射的に「うわぁー!」と声を上げそうになります。

「どろどろした思い」をガソリンに

話を独学に戻しましょう。「資格を取りたい」や「スキルアップして転職したい」などの目標は、言いかえれば「現状を変えたい」ということです。いま問題があるのか、よりよい将来をつかみたいのか、理由はそれぞれでも、変わりたいという思いに違いはありません。つらさに耐えて習慣を変えるには、楽しみを犠牲にするコストより将来のメリットが大きいことを強く認識しなければならないのです。そのようにして、目の前にニンジンをぶら下げ、走り続ける必要があるのです。
そして、「現状を変える」のはプラスだけに限りません。マイナスの環境から脱出するのも立派な理由です。私のモチベーションを強く支えたのは、人生が安定して収入が増えるなどのメリットと、二連続で外れた上司ガチャをもうやりたくないということでした。資格を得て、ゆくゆくは独立し、サラリーマンの世界から抜け出したいという強い気持ちです。もっとはっきり言えば、

「行きたくない飲み会は全部断りたい!」
「上司を視界に入れたくない!」
「偉そうな役員の機嫌を取りたくない!」
「通勤ラッシュの電車に乗りたくない!」
「ハナミズキは二度と聞きたくない!」

などというどろどろした思いです。社会的ステージを上げたいというポジティブな思いが「情熱」なら、嫌なことから逃げたいというマグマのように腹にたまった思いは「情念」です。昭和の演歌や、『おしん』の世界観に近いイメージです。
恥ずかしながら、私はできた人間ではありません。「資格を取って成功したい」とか、「いつか故郷を支えられる人間になりたい」などの気持ちも嘘ではありません。ただ、そのような聞こえのよい言葉だけでは、つらい日々を支えられなかったように思います。
長い独学期間には、どうしても気持ちが落ちこんだり、体が動かなかったり、模試の結果が悪かったりして、うまくいかない日があります。そんなときは、「年収1000万」というキーワードをニンジンにしてやる気を呼び起こします。それでもダメなときは、関西弁の叱責や、御徒町のスナックを思い返し、「お前はまたあんな思いをしたいのか!」と自分を奮い立たせていました。

独学の一番大きい問題は、誰も自分を管理してくれないということです。どんなときも、自分で自分の尻を叩いて走るしかありません。つらいときほど、誘惑は魅力的です。甘い沼にはまってしまうと、そこから脱出するには、入ったときより大きい力が必要になります。
目標達成後のビジョンが具体化するほど、自分を動かすエネルギーは大きくなります。自分は本当は何がしたいのか、一度きりの人生をどう変えたいのか――情熱でも情念でもかまいません。心のガソリンになる「何か」を見つけることが、独学達成の近道になるのです。

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プロフィール

石動龍
石動龍

青森県八戸市在住。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。石動総合会計法務事務所代表。ドラゴンラーメン(八戸市)元店長、ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干しラーメンの研究。

著書

意志の力に頼らないすごい独学術

意志の力に頼らないすごい独学術

石動龍 /
キャリアアップ、資格試験、公務員試験、TOEIC、リスキリングなどにおいて、予備...
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