AIが生成した文章は、どれだけ人間が書いたように見せようとしても、どうしてもAIの香りが漂う。これはたんなる感覚ではなく、いくつかの要素がその匂いを形作っているのだ。
大規模言語モデル(LLM)は、膨大なテキストデータから、もっともありそうな語句を予測して文章を生成している。つまり、平均的かつ無難な言い回しになるのだ。その結果として、AIの文章は整っているものの、独自性やトガりがなく、読者にとっては、カロリーゼロで無味無臭でまさしく機械的と感じられることが多い。これがAI文章に特有の匂いの1つだ。もともと、そういう書き味の人ならいいのだが、問題は自分自身の筆力がAIを下回る人がAIを使って背伸びをする場合に起きる。たとえると、ぶっきらぼうでガサツな人物が、ある日をさかいに生真面目な公務員のようになるイメージである。
「あなたがこんな整った卒のない文章を書くのですか?」と疑われたらおしまいである。AIの利用を証明されなくても、AIくさいと思われたらその時点でなめられる。AIに代弁させている人物というレッテルはAI以下と見なされるからだ。
現時点でAIが作った文章から漂う独特の匂いには次の3成分がある。
・語彙多様度が低い(同じような言い回しを何度も使う。例:「〇〇は重要です」「〇〇は非常に重要です」)
・定型接続詞の頻発(例:「さらに」「一方で」など)
・大げさな感情ワード強調(例:「画期的」「驚くべき」など)
実際、LLM検出ツール「GPTZero」で検証を行うと、語彙多様度(TTR)が0.42付近、接続詞出現率が実作者の平均の1.7倍ほどになる。そう、数値でも匂いは可視化できるのだ。
もちろん、今後のAI進化でこのような表現はさらにこなれていき、ますます人間に近づくことで見抜く難易度は高まるだろう。しかし、今後どれだけAIが進化してもそれでも残る要素がある。
・その人らしさ(話し方や考え方が一貫している)
・その人が持つ歴史・哲学(思考や価値観の変化・失敗談)
・一次体験(自分で撮った写真や録音、動画など)
・信頼できる証拠(実績や他人からの引用)
AIと人間の情報の違いをまとめると――AIが出力できる情報は他のだれにでも出せる、ありきたりなコモディティ情報だ。その一方で、人間らしい情報とはその人にしか語れない、権威性やオリジナリティということになる。つまり、AIにはない独自性や価値を出すには、たくさんの実績、経験、失敗談、哲学、様々な視点が必要になるので、価値を出せる専門家としてのハードルは上がったと言える。
これは中途半端なレベルは淘汰されるということでもあるし、その逆に力量のある専門家はこれまでの実績などが参入障壁となることで、ますますブランド価値が高まるということでもある。
今後はAIに出せない価値を出すために仕事を頑張るということに加えて、AIとの差別化を上手に見せる力も求められるだろう。
これまで「一個人のAI利用バレがバカにされ、なめられる原因になる」という話をしてきた。それならまだいい。本格的に問題になるのが専門家、つまり仕事でAI使用バレのパターンである。これは、なめられるだけで済めばまだいいほうで、多くは一発アウト、信頼は地に落ちるリスクを抱えている。
人間の専門家には出せるが、AIに出せない価値はなんだろうか。一言で言うと、「責任」にある。仮に、弁護士が法務問題についての記事を書いた場合、当然だがそこには一定の責任が生まれる。内容が大きく間違えていた場合、信頼を失って顧客から契約を打ち切られたり新規の仕事が来なくなることだってありえる。医師なら、医療判断を間違えれば訴訟を起こされてしまう。
だから、発言や意思決定には責任が生まれる。当たり前だ。仕事でお金を受け取るということは、責任を取ることとのトレードオフだからだ。
ところが、AIは専門家と違って責任を取れない。英語をAIで誤訳して取引で損失を出した場合、AIではなくAIの使用者に賠償責任が生まれるのは当然であろう。ビジネスマンならだれしも当然そのリスクを理解したうえでAIを使うことが求められる。
その専門家ポジションの人がAI使用がバレたら、一発アウトと言わざるをえない。「専門家なのにAIに丸投げ?」とバレた瞬間、報酬はゼロ査定になる。顧問料・講演料・原稿料、これらの価値は責任とセットだからだ。特に最近のSNS時代ではやらかしが秒で世界を巡り、二度と消えないデジタルタトゥーとして残り続ける。悪評は検索結果に長期残留し、新規案件が蒸発する恐ろしさがあるのだ。
そもそも専門家と知識だけの素人の違いは何かというと、「経験」と「実績」に尽きる。経験と実績があるからこそ、人はお金を払って彼らに任せようと思うのだ。医師免許はあるものの卒業後間もない医者の卵に、命がかかった手術をお願いすることに気が引ける理由はまさしく、人はその相手の経験と実績にお金を払う価値があると考えているからだ。
AIが出力できるのは情報だけである。一方で専門家は情報だけでなく、経験と実績を持っている。つまり、経験と実績がない専門家に価値はない。コスト面でAIに負けるからだ。
誤解のないようにしたいのは、私は「専門家はAIを使うな」と言っているわけではない。そうではなく、「AIに仕事の責任を取らせるような使い方をするな」と言いたいのだ。
AIは補佐役に過ぎない。専門家ポジションで記事を書くなり、動画を出すなら、情報だけでなく、経験と実績をつけることで、初めてその人である価値が生まれることを忘れてはいけない。