転職していくZ世代のなかには、「部長、この会社で一生働くつもりなんですか?」と、1つの会社で勤め上げる生き方を笑う者もいる。しかし、1つの会社に長くいる人には、転職を繰り返す人には決して手に入らないものがある。社内の誰が何を知っていて、どこに話を通せば物事が動くのかが分かっている。長年の実績があるから、大きな仕事を任される。失敗しても「あの人なら次は取り返す」と待ってもらえる。信用は、同じ場所に居続けた時間の分だけ積み上がる資産なのだ。数年ごとに職場を変える人は、そのたびに信用をゼロから積み直すことになる。
Z世代はそのことに気づかない。「今どき転職は普通だから」という理由で安易に辞め、「何が合わなかったのか」を分析しないまま次へ移る。配属なのか、仕事内容なのか、人間関係なのか、それとも働くこと自体への期待が高すぎたのか。もしも自分の側に原因があるなら、そこを改善しない限り、どこへ行っても合う職場は見つからない。会社は変わっても、自分は変わっていないからだ。
筆者自身、会社員時代に転職を経験している。英語と米国会計を学んだあと、会計の実務を身につける修行のつもりで日系企業の財務経理部に入り、そこで得た経験と英語を掛け合わせて外資系企業へ移った。筆者は転職でキャリアをつくってきたので、転職そのものを悪だとは思わない。ただ「居心地」だけで職場を決めると、転職がガチャになり、短期間の転職は「ジョブホッパー」と呼ばれて、敬遠されるのは日本だけでなく海外でも同じことである。
そして、これは辞めていく側だけの問題ではない。管理職にとって本当に厄介なのは、別の会社でロケット退職を繰り返した若者が、中途社員として自分の部署に入ってくることだ。辞めていく部下は、辞めさせればいい。だが短期離職を重ねてきた人材を採ってしまえば、育てる手間をかけた末に、また数ヶ月で去られることになる。先に紹介した調査では、スピード退職をした人の半数近くが、その後2回以上の転職を重ねていた。今の転職市場には、こうした人材が決して少なくない数で出回っているのだ。
筆者は外資系転職の面接でも「過去の職場であなたは何を学び、今回の仕事に繋げられるか?」「前職でどんな困難に直面し、どう乗り越えたか?」は繰り返し聞かれた。採用する側は、こうした質問で辞め癖を見抜こうとしている。管理職も中途面接では、職歴の長さより、ここを深く聞いた方がいい。漫然と働くだけではこうした質問に答える実績作りは出来ない。辞めるなら「その次は辞めないで済むか?」まで想定する必要がある。
嫌だから離れるだけの転職は、逃げた先にも同じ問題が待っている。ロケットは、どこに向かうかを決めずに打ち上げても、どこにもたどり着けない。辞めるのは一瞬でできる。だが、辞めた理由を言葉にするには時間がかかる。その時間を惜しまない人だけが、2回目の退職を避けられる。
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