結局、低姿勢こそが最強のビジネススキルである

「腰が低いと舐められる」は大ウソ!? なんだかんだ「腰が低いほど尊敬される」

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年を取ってからは「低姿勢」でいたほうが楽?

「低姿勢」を若い内に身につけると、年を取ってからの人生が非常に楽になる。

なぜかといえば、「あそこまでのベテランなのに腰が低い」「あの人は若者にも敬語+“さん付け”で接する」という、才能も何もいらない単なる常識的な言動で妙に高く評価されるのである。

その評価は勝手に広がっていき、自分にとって好意的な情報環境が生まれるのだ。その評価を得るに至った際、相手の若者が尊大な態度を取っていたりすると対比され尚良し、である。

だが、年長者になればなるほど、若者に対して横柄だったり乱暴な態度を取りがちだったりする。未熟に見える部分があるから指導をしてあげようかと考えているのかもしれないし、「ワシの時代はまだ終わっていない!」と思い込みたいのかもしれない。

やたらと呼び捨てにしたり、外部の人間であっても年下だったら「クン」と呼んだりする。これで実力が伴い、今でも現役バリバリなのであればさておき、「はっ? お呼びではないのですが……」みたいな人こそこんな態度を取りがちである。だからこそ「老害」という言葉が生まれてしまうのだ。

こうした態度はプロ野球のキャンプの時に見て取れる。大物OBがキャンプには大挙し、現役選手に指導をしている様がテレビで報じられていたが、正直現役選手からすれば

「なんで80歳の爺さんに教えてもらわなくちゃいけないんだよ……。近代野球をあなた知らないでしょう……」

と思っているところだろう。顔も名前も知らないかつての大物選手が「ちょっとこっちへ来い」なんて言い、帽子を脱いで神妙にしている様は、明確な上下関係を見せつけられているように思え、あまり気持ちの良いものではない。

いくら現役時代の実績があるとはいえ、「こっちはレギュラーを取りたいんだよ! というか、開幕一軍入りしたいんだよ! あなたの相手をしている時間なんてないの! あなたの時代、野球のレベルは今よりも低かったからバカスカ打てないんです!」と言いたくなるかもしれない。日本ハムファイターズの中田翔など、その表情をほんの少しだけ露わにする。

「低姿勢」は「へりくだり」「卑屈」とは違う

さて、人々の感情というものは、社会に蔓延した“空気”によって左右される。日本の場合は、「年長者を敬う」「上下関係は大事」という空気が存在する。

たとえば、若い男が初老のタクシー運転手に尊大な態度を取っていたり、罵倒しているのをネット動画で公開でもされたら炎上するだろう。いくら客とはいえ、それはやってはいけないことなのである。

大企業の正社員が下請け会社の社員に対し詰問口調だったりしたら、「パワハラ」と感じることもあるだろう。居酒屋のバイト店員に敬語を使えず、呼ぶ時は両手を叩きあたかも池の鯉を呼ぶかのような態度を取る男がいた場合、同行した恋人から「この瞬間、彼との別れを決意した」と思われても仕方がない。

私は現在編集やコンテンツ制作、広報の現場仕事をやっている。

45歳にもなれば一般企業では管理職系になっているだろうが、フリーランスのため相変わらず現場仕事をやり続けている。そうなると、仕事で会う人々はほぼ自分よりも年下だ。

そして、インタビューを受けることなども多いのだが、大抵の場合、皆さん低姿勢である。「この人はキャリアが長い人だからな」という敬意をもって接してくれているのがよく分かるのだが、こちらもそれと同様に低姿勢にしておくと「あの人は感じが良かった」という評判を飲み会の席や打ち合わせの場で言ってくれ、次回の仕事に繋がったりもする。

ただ、「低姿勢合戦」のようにしてはいけない。それこそ、上座の席を勧められたらいちいち断らないことや、飲み物の種類を聞かれた場合に「何でもいいです」と言うなどはしないでいい。これらは無駄である。低姿勢とは別で、単にへりくだり過ぎているだけだ。

似たような言葉だが、ここで一旦「低姿勢」「へりくだり」「卑屈」の3つの言葉の違いを見てみよう。辞書の言葉を出すわけではない。

【低姿勢】
高圧的にならないこと。丁寧であること。相手に敬意を持つこと。相手と自分は対等であると思うこと。

【へりくだり】
相手を尊敬しているかのようにふるまうこと。自分を下の立場の人間である、という立居振舞をすれば相手が喜ぶと勝手に思うこと。

【卑屈】
自分をあたかも価値のない人間であるかのような、演技がかった過度な低姿勢モードに入ること。

別に低姿勢の勧めは「自信を持つな」と言っているわけではない。自信を持ったうえで、あくまでも相手を立てましょう、ということでしかない。

人間は感情で行動が左右されるのと、見下されたくない動物である。一度会った人間から横柄な態度を取られた場合にもう一回会いたいと思うか? ということである。或いは、そんな人物を自分の同僚等に紹介したいか? ということなのだ。

いわば、私の場合低姿勢でいつもいることが営業活動になっており、年齢の割には気さくで年長者ぶらないということで若者から頻繁に仕事や飲みのお誘いをいただく。本連載でもおいおい登場してくると思うが、「あの時威張っていたヤツは消えていった」といった人々は若い頃はすでに低姿勢ではなかった。

少しでも売れてしまうと過去の謙虚さを失ってしまう人というのがいるのである。それまでは低姿勢だったと思ったのだが、実はそれは「へりくだり」か「卑屈」であったことが露呈してしまうのである。

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プロフィール

中川淳一郎
中川淳一郎

1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。ライター、雑誌編集などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『縁の切り方 絆と孤独を考える』『電通と博報堂は何をしているのか』『ネットは基本、クソメディア』など多数。

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