結局、低姿勢こそが最強のビジネススキルである

「優秀で感じの良かった仕事仲間」が突然高圧的に! 実は多い「ニセ低姿勢」タイプ

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「低姿勢」は演じられない?

当連載では「低姿勢」が意外と身を助け、年収を上げるかを述べてきたが、ダメなのが本心から低姿勢を貫かない人々。あくまでも「立場」により低姿勢でい続ける人々である。

本当は低姿勢でいたくないにもかかわらず、「自分は下請けだから」「自分はまだ役職がないから」といった理由で低姿勢を演じる。

それをつくづく感じたのがA氏である。

私が博報堂の正社員だった時代にA氏とは一緒に仕事をした。同氏は当時イベント会社勤務のイベントディレクターで、私のような企業の記者会見を企画するようなPRプランナーは同氏の会社に実際の制作を発注する。

その時は、私と同氏の間では上下関係が発生する。彼の方が2歳ほど年上だったが、私の方が現場では上の立場になるのである。その理由は「発注主だから」ということでしかない。

ただ、私自身はあまり「発注主だからエラソーにする」という感覚は持っていなかった。あくまでも「一緒にイベントを作り上げる仲間」と考えていたのである。

これに対して反感を持つ方もいるだろうが、イベント会社とPR会社に新卒で入る人のほとんどは「大手広告代理店の内定を取れなかった人」であり、ちょっとしたコンプレックスを持っていることが多い。「いえいえ、私はPR会社(イベント会社)しか受けていません」と言う方もいるかもしれないが、記念受験的に電通か博報堂にはエントリーしていることだろう。

それはどうでもいい。ただ、イベント会社やPR会社に入る人の一部は、電通・博報堂に対して何らかもやもやしたものを抱えている場合がある。A氏はそのタイプの人間だった。

優秀で感じの良かったA氏

A氏と仕事をしていた時期は「優秀で感じの良いイベントディレクターだな」と思っていた。だからこそ、非常に彼の仕事ぶりには感謝していた。

しかし、突然その関係が変わる事態が発生した。

私はとある女性向けアパレルブランドの店舗オープンイベントの企画を担当することになった。その時、A氏はすでにイベント会社を退職しており、とある大手エステチェーンの宣伝・広報担当者になっていた。

A氏からは転職後、「何かタイアップ的なことがあればご協力します。イベントで『出張エステ体験会』的なことはやりますので、お声掛けをしてください」と連絡が来た。我々が手掛けるイベントの一部を使い、体験エステをし、そのまま会員になってもらおう、ということだ。

そんな中、女性向けブランドのイベントなだけに、A氏に連絡をした。店舗の一部でエステの体験ができる、ということにしたのだ。

条件としては、「ショップのオープンイベントの告知をするにあたっては、この体験会について言及する」「体験した人、問い合わせをした人の連絡先をもらい、資料提供等のコンタクトを取るのは可能。アンケート実施も可能」「ただし、あくまでもブランドのオープニングのサブ的イベントなので、しゃしゃり出ないように」という3つが主軸となった。

事前の打ち合わせ等では、穏やかに進んだが、イベント開始から数時間後、雲行きが怪しくなっていった。A氏はエステティシャンともう一人の広報担当の部下と一緒に東京から大阪まで出張として来ていたが、体験者が少ないことに不満を持っているようだった。

こちらとしては、あくまでも来場者へのサービスの一環といった形で捉えていたし、主眼はアパレル店がオープンした、ということである。だが、A氏からすれば、「大勢の人が来るオープニングの日に、出張店を無料でオープンした(ただし、交通費と人件費はかかるが)」ということになる。

恐らくA氏はイベント終了後、会社に戻ってから「○人のエステ体験者が来て、チラシを○百枚配り、今後店に来る確約を取れた人は○人です」といった報告をしたかったのだろう。

だが、そのノルマに達しない人数しかこのままでは報告できない! といった焦りを覚えたのか、突然彼は店内の客に対し、チラシをまき始め、アンケートを書かせようとし、さらには強引にエステ体験をさせようとする。

彼がこうしたくなる気持ちも理解できたので、しばらくは放置していたが、アパレルブランドの責任者が私に文句を言ってきた。

「ちょっと、ウチに来てくれたお客さんにあの強引な勧誘はどうかと思います。あくまでも今回は場所を貸してあげる、という形なのに、エステの方が目立つような形にするのはやめてもらいたいんです」

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プロフィール

中川淳一郎
中川淳一郎

1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。ライター、雑誌編集などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『縁の切り方 絆と孤独を考える』『電通と博報堂は何をしているのか』『ネットは基本、クソメディア』など多数。

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