ストレスに強く、自己肯定感が高くなる おばけメンタル

「いつも自信がない人」が気づいていない、自己肯定感を高める簡単なテクニック

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はじめに

私は人間の設計をとても残念に思うことが多い。そもそも設計ミスじゃないかと思うことがよくある。
ちょっと花粉を吸えばクシャミが止まらないこと、どこかが痒くてもだいたい掻かない方がいいというケースが多すぎること、栄養不足だから口内炎になったのに口内炎が痛くて栄養が摂れないこと……などなど。
その中でもぶっちぎり文句なしNo.1殿堂入り間違いないチャンピオン the グランプリ十年連続の覇者は、「自信を忘れること」。
これに尽きるだろう。

「自信を忘れること」。つまり、もともとあったはずの自信を、失ってしまうことだ。
自信がないと、自分を肯定できず、仕事であろうと遊びであろうと、意欲的に取り組めなくなってしまうだろう。そうなれば、結果として、人生から幸福さが失われてしまうのだ。

だが、この「自信を忘れること」というのは、人類が太古の時代より生き延びてきた結果から見ると、さほど特別でも珍しくもないという説がある。
種が生存する過程でどのような要素が重要であるかを調べる研究があるそうだ。
太古の昔、野生の動物と共存していた人類は、襲われたり狩りに失敗したりして命を落とすことが少なくなかった。そこで彼らはどうしたら種を存続できるかを考えた。その答えは、戦闘力や頑健さで動物に遥かに劣る分、頭を使い、工夫を続けることだった。彼らはまず、自身の成功体験や成果にとらわれて慢心することが、失敗の理由だと考えた。そこで、それらをなるべく早く忘れ、これから来るだろう脅威に備えるべく、新たなアイディアを生み出すことを続けた結果、慢心したり隙を作ったりすることなく、その身の防衛に成功してきたという。そしてその中で役立った成功体験を淡々と知識に変え、生き延びてきたのだ。

この積み重ねを経て、人類は過去の成功よりも未来への不安に苛(さいな)まれる思考を基本として所持するようになったのである。
その思考の中では、成功から来る自信は慢心や隙に変化するため、危険以外の何物でもない。

しかし、四方八方を野生の動物に囲まれる生活は、今のこの時代にはもう発生し得ない。その時代性から見ると、この基本思考は実際の生活にそぐわなくなってきているとも言える。
今回は、その基本思考から離れることで得られるメンタルケアテクニックを、皆さんに伝授したい。

レストランにいた閣下(かっか)

私がまだ学生で、アルバイトをしていた頃。
高校生にしてアルバイト先のレストランの古株になっていた私は、二つ年上で大学生の新人の教育係を担当することになった。
その大学生は神奈川県の女子大に通う地方出身の女学生で、見た目にはなんの変哲もなかった。

ある日、その大学生と休憩時間が重複し、休憩室で客には出せない気の抜けたコーラを片手に談笑していた時のことである。
私はなんの気なしに、「なにかスポーツとかやってました?」と尋ねてみた。
大学生は首を横に振り、僅かに困った顔で「運動神経悪くて……」とだけ呟き、俯いた。
地雷を踏み抜いた気がした私は、その気まずい空間を埋めるべく、「あ、じゃあ何か特技あります?」と、立て続けに聞いた。
今考えれば、どう考えても盛り上がってない会話を深堀りするようで悪手だが、当時まだ高校生だった私の会話術は、これが限界だった。

しかし、大学生は予想だにしない返答をよこしてきた。
「あ……。強いて言えば、書道、かな……?」
僕は見出した活路を広げるべく、続けた。
「書道! なつかしいな、中学生の頃にやったな~。上手いんですか?」
大学生は今度は恥ずかしそうに俯き、こう言った。
「全国二位です……」

おいおいおいおいおい。待て待て待て待て待て待て。何? え?
突然の全国覇者クラスの登場である。もはや運動神経はどうでもいい。そんなものよりも圧倒的に誇れる実績すぎるだろ。
むしろ俯いて言うことじゃないのよ。表彰台の上で銀メダル齧りながら言うべき内容なのよ。
突然のカミングアウトのインパクトが極端に大きい。気持ちの整理がつかない。なんかコーラでごめんなさい。シャンパンとかほしかったですよね。

そんな大学生に私は言った。
「いや、すごいじゃん。驚異的な実績じゃないですか。なんでそんなの隠してたんですか」
俯き加減を少しだけ水平に戻しつつ、また予想外のコメントが返ってきた。
「隠していたのではなくて……。忘れていたっていうか、なんの自慢にもならないなと思って」

おいおいおいおいおい。待て待て待て待て待て待て。何? え? え?(二回目)
自慢にしかならないだろ。その実績を貶せるのは全国一位の奴だけでしょ。
全国二位よ? 日本人は一億二千万人いるのよ? 自分の下に119,999,998人以上いるのよ? 覇者じゃん。皇帝じゃん。閣下と呼ばせてください。

「えー、一生誇れる素晴らしい功績だと思いますけどねー! もしかしたら書道の先生のバイトとかできるんじゃないですか?」
若き天才、ないしは全国二位に教えてもらえるのだ、絶対に需要はあるだろう。

しかし大学生は改まった様子で虚空を見つめて、再度私にこう返した。
「いや、でもそのあとずっと入賞できなくて。そうしたら私の過去の入賞も全部マグレだったんじゃないかって思えてきて、実感もなくなって全てが嫌になってしまったんです。だからもうこのこと忘れようかなって思っています……。なんかすみません、こんな話しちゃって」

手元のコーラよりも気の抜けた素振りで、彼女は暗い雰囲気に包まれ、私は何を言えばいいかとあたふたとしてしまった。そんな苦い記憶である。

その後も、私は人生で似たような人間に三人遭遇した。
一人は、世界三位のパントマイムパフォーマー。もう一人は数学オリンピック国際大会出場者。最後の一人は、けん玉の世界チャンピオン。
しかし、そんな栄光を手にしているのに、全員が口を揃えて自信なさげにこう言うのだ。
「私、そんなすごくないです」と。

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プロフィール

おばけ3号
おばけ3号

作家・コラムニスト&インフルエンサー。1990年生まれ。
X(旧Twitter)にて、フォロワー数10万人超のインフルエンサーとして日常の愉快な話や、人々や社会とのコミュニケーションの関わり合いの手法を発信。聡明かつ鋭い視点と分析力に富んだ意見で、多くの企業・メディア・働く若年男女層の評価を得ている。
その実像は都内のコンサルティング会社に勤務する、現役のコンサルタント。
大手上場企業に対するSNS活用コンサルティングサービスの提供や、SNS活用セミナー登壇など多くの実績を擁する。
2020年より、タウンワークマガジン(リクルート社)へのコラム掲載や、株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションとのコラボレーション商品の開発販売等を実現し、自著『「お話上手さん」が考えていること 会話ストレスがなくなる10のコツ』をKADOKAWA社より発売。

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