自身の能力を必要以上に高く見積もり、油断や隙を生むのは言語道断だが、低く見積もって自分の精神面や他者からの評価にダメージを与えるのは非常にもったいない。
評価は、他人からされるものであり、他人と比較されて決まるものなのだから、何かのランキングや賞を得た人間の能力が低いだなんてことは理論上ありえない。
だが、自身を過小評価してしまう人は少なくない。
それは、非常にもったいないと言えるだろう。なにせ実力はあるのだから。
具体的には、自身を過小評価すると自分の存在をとにかく小さく考え、行動が委縮する。行動が委縮するから自身の評価が低いままで、また自分を小さく考え、行動が……といった、無限マイナスダメダメ落下オーマイガーサイクル(勝手に名付けた)に陥る。
そして、最悪のパターンになると「過去の私はすごかったかもしれないけど、今の私は……とても社会や他人に見せられるものでは……」というように、何も悪くないのに自身が自身を傷つける心理状態に陥ってしまう。
ちなみに、この心理状態を「インポスター症候群」という。インポスター症候群とは、自己の能力や立場、財産や成功などについて、自分の実力を心の中で肯定できずに、自分を過小評価する心理状態のことである。インポスターは英語で「詐欺師」を意味しており、インポスター症候群に陥った人は「自分の能力は大したものではないのに、まるで成功している者であるかのように、自分が他人を騙している詐欺師のような気分になる」という罪悪感に苛まれ、心身に悪影響を及ぼしてしまう。
ここで断言したい。
過去のあなたなんていない。全て地続きで、過去も今のあなたの一部。そう考えるほうがいい。
それでも自分を信じられない迷える子羊のあなたには、ここで私がしっかり、引導……いや、幸せに向かうための技術を授けたいと思う。
今回授ける技術は、堤防を作る技術だ。……あ、違うよ。別に建設業の人とかじゃないです。ショベルカーとかいらないです。色黒でムキムキで工事現場にいる強面のお兄さんとかもいらないです。
さて、皆さんは、堤防をご存じだろうか?
海や湖畔、湾岸に存在する波消しブロックが集積しているところや、コンクリートで造られた防壁のことである。
堤防の役割はいくつかあるが、最も大きなものとして「外部からの脅威や不要な波浪を防ぎ、堤防の内側を安全かつ平穏に保つ効果」が挙げられるだろう。
これを人に置き換えてみると、この「内側」とはメンタルにあたり、「外部からの脅威」こそが、メンタルにダメージを与える存在である。
さて、では「堤防」とは何か?
ここで自身の部屋を見回し、記憶を呼び起こしてみてほしい。賞状やトロフィーをもらった経験がある人はいるだろうか? もしくは先生や上司、尊敬する人などに褒めてもらった記憶。
少なくてもいい。それが事実なら全く問題ない。
その実績や記憶たち、それこそが堤防なのである。
それでは続けて、この堤防の使い方を説明しよう。
例えばの話。
先に紹介した書道全国二位の大学生は、普段生活していて、よくこう思うと言っていた。
「はぁ……私、何も取り柄ないな。書道全国二位とか、日常で役に立たないし」
これでは、堤防が堤防の役割を果たしていない。そこで、メンタルの不調や脅威に対する堤防として、しっかり前面に押し出してみよう。
「はぁ……私、何も取り柄…………………………あったわ。書道全国二位だわ」
~完~
である。事実や実績を堤防として構えることで、もはやそれ以上マイナス思考のつけ入る先がなく、完結するのだ。
大事なのはまず、自分が成し遂げた事実や実績をしっかり評価すること。次に、それを前面に押し出すこと。
自分がダメだと思う前に、実績をちゃんと見ること。本当にダメか? そんな実績まで持っているのに?
さらに言うなら、そもそもダメだと思ってはいけないんだ。それは、過去にあなたを称賛してくれた人たちの目を節穴とすることにもなりかねない。
あなた一人の判断で、あなたをダメだと判断してはいけない。
恋人のために、家族のために、先生のために、称賛してくれた人々のために、あなたは自分のことをダメだと思ってはいけないのだ。
その決意を胸に、堂々と事実のチカラを借りて心の堤防にしよう。
今、パッとしないのではない。昔がパッとしすぎているのである。
今、若い頃のように努力ができないのではない。今そんな若い頃のような無尽蔵の体力を必要とする努力をしたら、物理的に死ぬからしょうがないのである。
「私の実績は大したことない」、なんてことはない。
第三者があなたを称賛した、その事実は紛れもないあなたの素晴らしい実績だ。何度祝っても足りないくらいだ。
なんだかめでたいな、シャンパン開けよう。