小さな幸せの見つけ方

差し入れは「気持ち」を受け取るもの

2018.06.04 公式 小さな幸せの見つけ方 第21回
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おばあちゃんのくれたみかん

先日、仕事で東京から地方へ一泊二日の出張をすることがありました。飛行機で地方の空港へ二時間のフライト。そして、空港から目的地へはバスと列車を乗り継いで移動したのですが、空港に着いてからの移動時間の方が飛行機に乗っている時間より長かったのです。バスと列車の本数が少なく、目的地に着くまでに約三時間を要しました。往路の移動だけで一日の半分が終わってしまうという長い出張でした。

しかし、不思議なことにあまり疲れはありませんでした。その理由は、列車の中でお会いしたおばあちゃんのおかげでした。

空港からバスに乗り、最寄りの駅に移動し、列車に乗りました。その列車は始発ということもあり、席はガラガラでした。列車には「ワンマン」と書かれており、車掌さん一人が乗っているたった二両の列車でした。

私は窓から景色を見ようと横長い席に座りました。列車が出発すると、どんどん山の中に入っていき、青々とした林木の景色を見ることができました。その景色は、私の生まれ育った山口県の田舎と変わらず、なぜか思わず笑ってしまいそうでした。

すると、腰の曲がったおばあちゃんが乗車してきました。おばあちゃんは、ゆっくり私の隣に座り、私にニコリと会釈されました。私も会釈を返し、またしばらく景色を見ながら列車に揺られていました。すると、そのおばあちゃんが、鞄からごそごそとオレンジ色の網に入ったみかんを取り出しました。そして、私に「お兄さん、よかったら」と言って、みかんをひとつくれました。そして、みかんの皮をむき、食べ始められました。私は有難いと思い、せっかくなので一緒に頂きました。

スーツを着てネクタイを締め、コロコロの付いたスーツケースを持ち合わせていた私の姿が珍しかったようで、私がここにいる理由から、出身地、仕事、家族などいろいろとお話をしました。方言が強くて、ところどころ聞き取れないこともありましたが、楽しい時間を過ごしました。しばらくすると、先におばあちゃんが列車を降りることになりました。すると、まだ先の長い私を気遣い、「お兄さん、がんばってね」という言葉と一緒にみかんをもう二つくれました。

私は御礼を伝え、せめてもと思い、おばあちゃんを列車の出口まで見送りました。なんだか妙に嬉しくて、残りの乗車時間も私は温かい気持ちで過ごすことができました。もちろん、みかんを頂けたことも嬉しかったのですが、私はおばあちゃんの心優しい気遣いが本当に嬉しかったのです。その中には、私の出張の仕事のことだけではなく、これからの私の生活のことへのエールが込められていた気がします。まったく見ず知らずのおばあちゃんでしたが、私に寄り添って下さった感じがしたのです。

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プロフィール

大來尚順
大來尚順

1982年、山口県生まれ。僧侶でありながら、講演や執筆、通訳や仏教家関係の書物の翻訳なども手掛け、活動の場を幅広く持つ僧侶。龍谷大学卒業後に渡米。米国仏教大学院に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。
ビジネスマンの悩みを仏教の観点から解決に導く著書『端楽(はたらく)』や、英語に訳せない日本語の奥深さを解いた『訳せない日本語』(ともにアルファポリス)が好評のほか、国内外を問わず仏教伝道活動を広く実践している。

著書

小さな幸せの見つけ方

「日常の中にある、普段は気づきにくい“幸せ”を再発見すること」をテーマとした、著者自身の実体験による24話のエッセイ。人間にとって本当の“幸せ”...

訳せない日本語

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端楽

浄土真宗本願寺派の僧侶であり、ハーバード大学研究員の経歴を持つお坊さんが、「働く」ことを仏教的な視点から解説し、人が働くことの意味と意義における...
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