欧米エリートが使っている人類最強の伝える技術

「相手がバカすぎて仕事にならない!」を解消する、バカの動かし方

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相手が理解できる限りの難しい言葉を使う

まずは、言葉遣いについて。「相手が理解できる限りの難しい言葉は使う」です。

「難しい言葉」にも、細かく言えば業界用語や専門用語、難解語など種類がありますが、今回は区別しません。ざっくり次のような言葉たちです。「マーケティング」「ソリューション」「リスケ」「インターフェース」「フィードバック」「抽象」「一般化」「汎用性」「流動性」などなど。「難しくないよ」という人もいるかもしれませんが、これらを難しく感じる人もいるということです。

よくビジネス書などで、「難しい言葉はできる限りかみ砕いた方がいい」という教えがありますが、「バカ」を相手にする場合、それは間違いです。彼らは賢いと思われたいのですから、自分の知っている言葉までかみ砕かれると「バカにされた」と思って、ムキになって訳の分からないことを言いはじめます。

それよりは、相手が理解できる限りの難しい言葉は使いましょう。

ただし、ここが面倒なのですが、相手の理解できない言葉は地雷です。あまり理解できない言葉を使いすぎると、相手はマウンティングされたと思い、またムキになって訳の分からないことを言いはじめます。

相手がどんな言葉を知っているのか知識レベルが読めない場合は、相手が使っている言葉を後追いで使うようにすればいいでしょう。

話は「正しさ」よりも「最短距離」を選ぶ

次に、話の進め方の話。「バカ」相手の話は「正しさ」よりも「最短距離」を選ぶことが大切です。どういうことか?

ここで高速で復習。

第四回の「ロゴス」についての解説でも書きましたが、厳密な意味で「正しい話」とは、「根拠」と「結論」が「論理」でつながっている話のことでした。

例えば、あるお菓子会社に勤めている人が、高たんぱく質食ブームに乗って、自社開発のプロテインバーを発売する企画を立てたとします。それを上司に向けて、本当の意味で「正しく」説得するなら、次の三つの手順が必要。これが基本の形です。

1、根拠:「高たんぱく質食が流行っている」というデータを見せる
2、論理:「今回のプロテインバーが、流行の高たんぱく質食に当てはまる」ことを説明する
3、結論:「今回のプロテインバーも売れる」と結論づける

まともな相手とガチで議論やプレゼンをするときには、最低でもこの三つのステップが揃っていなければ、すぐに聞き手からロジックの不備をツッコまれて終わりでしょう。

しかし、今回は別。相手は「バカ」なのです。

これでは「バカ」には長い。彼らは自分が理解できない話を聞くと、理解できなかったことを隠そうと必死になって(要は、プライドを守るために)、訳の分からないことを言いはじめます。ではどうするのか?

そこで、思い切って、真ん中の「論理」のステップは省略しましょう。つまり、「根拠」を示したら、そこから直接「結論」を断言するのです。

例で言えば、「高たんぱく質食が流行っている」というデータをいくつか見せたら、「これらのデータを見ても、今回のプロテインバーは売れるはずです」といきなり断言してしまう。

他に何も言う必要はありません。

厳密さは犠牲にしてでも、「最短距離」を行くのです。

「バカ」相手の説得で必要なのは、分かりやすい「根拠」(数字、図、表、画像、動画など)と、力強く断言された「結論」。それだけです。

そうすれば、相手は頭を使わずに直感的に理解ができますし、納得もしやすい。相手のプライドを傷つけるリスクも大幅に減少します。

相手の言い分を引用する

三つ目。「バカ」との話し合いの中では、積極的に相手の言い分を引用していきましょう。

相手の言い分に自分の意見が反映されたという事実は、きわめて聞き手のプライドを満足させるものです。

同じ話を前々回の感情的になった相手を動かす場合でも紹介しましたが、感情的な相手はある意味では「バカ」でもありますから、同じテクニックが有効なのです。復習すれば、次のような言い回しです。

「○○さんも先ほどおっしゃっていたように~」
「○○さんがご不満に思っていた~という点は、実は私も同感でして」
「先ほどうかがった~というご意見から見ましても」
「先ほどの~というご提案は、大変参考になるものでして」

このような殊勝な言い回しは、バカを動かすうえでは必須になります。

相手もご満悦で、こちらの言い分も通るのが理想

以上の三つを守って交渉説得を行えば、「バカ」相手でもプライドを傷つけないままに、こじらせることなく、相手を説得することができるでしょう。

最後に本当のことを言えば、「バカ」というのはテーマや話題によっては、いつ自分自身がそれになるか分からないものでもあります。そう考えれば、相手を一方的に論破したりして、プライドまで傷つけてしまうのは、ちょっと人としての優しさが足りません。

それよりは、相手もご満悦で、こちらの言い分も通る。こんな形を作るのが、やはり一番平和な解決方法でしょう。

 

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プロフィール

高橋健太郎
高橋健太郎

横浜生まれ。古典や名著、哲学を題材にとり、独自の視点で執筆活動を続ける。近年は特に弁論と謀略がテーマ。著書に、アリストテレスの弁論術をダイジェストした『アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、キケローの弁論術を扱った『言葉を「武器」にする技術』(文響社)、東洋式弁論術の古典『鬼谷子』を解説した『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社)などがある。

著書

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