ただ、未来の話をしただけでは、家族の未来像が夫婦でたいていズレます。ここが、ちょっとややこしいところなんですが。
未来の話をしたすえに、たとえば「子どもの幸せを一番大事にしたいね」という目標が、うっすらと立ち現れたとします。これは、ほとんどの夫婦が合意できる目標ですよね。でも、実際にそれを目指すとなると行動がズレます。
たとえば、夫は「子どものために、もっとお金を稼ごう」と思った一方で、妻は「子どものために、もっと時間を使おう」と思ったとします。言うまでもありませんが、どちらも間違っていません。方向が違うだけです。しかしその差異は、非常に大きなものになります。夫は家族のための時間を犠牲にしてお金を稼ごうとし、妻はそんな夫を、子どもの将来を考えていないと非難する。そんな、ある意味真逆の結果になってしまうのです。
これ、仕事でもよくあります。売上を伸ばしたいと言いながら、新規が必要なのにリピーター施策ばかりやっている。本人たちは真面目なんだけど、努力の方向がズレている状態です。
では、この問題はどうすれば解消できるのでしょうか。ここでキーになってくるのが「課題鮮明化」です。
ビジネスの組織開発の文脈では、よくこんな整理をします。問題とは「現状と、こうありたい姿のギャップ」です。そして、課題とは「問題の中でも、優先順位が高いもの」という分け方です。さらに、その課題の中で「ここを押さえれば、一気に進むよね」というポイントをセンターピンと呼んだりします。
夫婦で話していると、以下のような話題が課題として上がりがちだと思います。
・家事の分担をどうする?
・子どもの塾どうする?
・週末どう過ごす?
しかし、これはじつは、優先度の高い課題ではなかったりする場合が少なくありません。その裏に、
・夫婦が互いに感心を持っているか
・お金の不安
・将来の見通しのなさ
みたいな、もっとも優先度の高い課題であるセンターピンが隠れていることが多いのです。そこを外したまま対策を話しても、噛み合わないんですよね。そうしてぶつかってしまうことが多い。
たとえば、「家事の分担をどうする?」という話をしているが、じつはその根っこには、ほったらかしにされている妻の訴えが隠れており、「夫婦が互いに感心を持っているか」がセンターピンとしてあるといったケースが少なくないのです。
そして、何がその家庭において課題であるかは話し合いでしか見つけられません。また難しいのは、意見が真っ向からぶつかった瞬間です。ここで「どっちが正しいか」をやると、ほぼ確実にこじれます。個人的に意識しているのは、こんな順番です。
・まず「そう思うんだね」と受け止める
・「そもそも、何を目指してたんだっけ?」と目標に戻る
・「じゃあ、他にどんなやり方があるかな?」と別案を探す
対立を解消しようとするより、一緒に考え直す感じのほうが、うまくいくことが多いです。
優先順位がズレるのは、だいたい情報の持ち方が違うから。夫婦で話が噛み合わないとき、「価値観が違う」と言われがちですが、実際は、見ている情報が違うだけ、というケースがかなりあります。一方はリスクの情報をたくさん見ていて、もう一方は「まあ大丈夫でしょ」という情報しか持っていない。この状態で結論を出そうとすると、重要度も緊急度もズレて当然なんですよね。
だから、課題鮮明化の場でやるべきなのは、正解を決めることじゃなくて、前提となる情報をそろえることなんだと思います。
仕事では、関係性と目標、両方が大事だとわかっています。家庭もまったく同じです。夫婦が互いに感心を持っているか、未来について話す時間、優先順位をすり合わせる余白、この3つがあるだけで、だいぶ違ってきます。
家庭は、上司と部下みたいに命令で動かせません。だからこそ、合意形成が必要になる。完璧に揃わなくていいし、すんなりもいかない。でも、何度も目標に戻りながら、少しずつ調整していく。それができるようになると、家庭は「ダメ出しの場」じゃなくて、一緒に進めるプロジェクトに近づいていくんじゃないかなと思います。