――「想定通りにいかないこと」とは、たとえばどんなことですか?
高津 一番難しいのはピッチャーの継投、リリーフ陣の起用法ですね。先制して中押し点も奪って、勝ちパターンの継投であれば、もちろん計算は立てやすいです。でも、たとえリードしていても、「もしもこのピッチャーが無事に抑えた場合は……」「ここで同点に追いつかれたら……」「一気に逆転されたとしたら……」など、いくつものパターンをシミュレーションした上で、その日までの連投日数、各々のコンディション、相手打者との相性など、さまざまな要素が絡み合っていくつもの継投パターンがあります。それを試合展開に応じて瞬時に判断、決断していく。それは本当に難しいです。
――さまざまなシチュエーションを想定する際には、当然、ネガティブな結果も考えておかねばなりませんよね。
高津 もちろんです。グラウンドで頑張っている選手には申しわけないけど、「ここで打たれたら……」という想定をしておかないと、次に打つ手が遅れてしまいますから。今まで「継投」の話をしましたけど、それは「攻撃」でも一緒です。「次に誰を代打に送り出すか……」「彼の代わりに誰を守らせるか……」「この打者が凡打に終わったら、次に代打を出すか、そのまま打たせるか……」など、いくらでもあります。
――テレビ中継を見ていると、監督の手元にはいつもクリップボードや半分に折りたたまれた白い紙があります。これは選手用兵の際に参考にするリストなのですか?
高津 あぁ、そうです。もちろん、ベンチ内には多くの資料が用意してありますけど、いつも持っているボードや白い紙は両チームのオーダー、メンバー表です。ベンチ内のホワイトボードにも自チーム、相手チームのメンバー一覧は書いてありますけど、手元の紙で確認をしながら、誰を出すか、誰を代えるか、あるいは相手は誰が出てくるのか、誰に代えてくるのかをシミュレーションしています。