2023ヤクルト髙津流 躍動の燕マネジメント

クローザー田口投手が喫した逆転被弾――
「この先、もっとしんどい場面がいっぱいある」

クローザーとはもっともっと奥深いもの

――堂林選手のフォアボールにしても、秋山選手のホームランにしても、その場面での田口投手の心境は理解できますか?

髙津 秋山選手にホームランを喫した一球なんて、そもそもあんなところに投げるつもりはなかったと思います。あれは失投中の失投でした。100%初球から振ってくる場面、しかもスライダーを狙っている場面で、そのスライダーを甘いところに投げてしまった。それまでは「ホームランに警戒しよう」という思いで、「低く、低く」投げていたのに、あの1球ですべてが終わってしまった。すごくもったいなかったですね。それまでは全神経を集中して、丁寧に投げていたのに、ストレートのフォアボールを出したことで、心の隙間というのか、フッと気が抜けてしまった瞬間がありましたね。僕自身の経験からも、それは手に取るように理解できました。

――試合後、田口投手が口にした「勉強になりました」という言葉を聞いて、監督はどのような印象を持ちましたか?

髙津 「クローザーというのはもっと奥深いものだけれどな」と心の中で思っていました。「もっともっと、しんどい場面はいっぱいあるよ」というのが、率直な感想ですね。試合の勝ち負けは、当然監督である僕が背負うものだけれど、打たれた責任に関してはクローザーが負わなければいけない。こちらがリードしている中で、相手ベンチからは代打、代走が次々と出てくるのが9回のマウンドです。それを「0」で抑えることがどれだけ難しいことか。言葉で表現できない程の難しさ、それを田口はこれから経験していくと思います。

――先ほど監督が言ったように、この経験を次にどう生かしていくか。それが、現時点での田口投手に求められるものとなりますね。

髙津 あの試合は痛い目に遭いましたけど、それでも、開幕以来クローザーとして十分に頑張ってくれています。いいスタートを切ったと思います。ぜひ、この経験を糧にして、これからのピッチングに生かしてほしい。田口について、今はそんな思いがとても強いですね。5月からは6連戦が続きます。これからも、じっくりと腰を据えて戦っていきます。引き続き、「応燕」をよろしくお願いします!

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プロフィール

髙津臣吾
髙津臣吾

1968年広島県生まれ。東京ヤクルトスワローズ監督。広島工業高校卒業後、亜細亜大学に進学。90年ドラフト3位でスワローズに入団。93年ストッパーに転向し、20セーブを挙げチームの日本一に貢献。その後、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年シカゴ・ホワイトソックスへ移籍、クローザーを務める。開幕から24試合連続無失点を続け、「ミスターゼロ」のニックネームでファンを熱狂させた。日本プロ野球、メジャーリーグ、韓国プロ野球、台湾プロ野球を経験した初の日本人選手。14年スワローズ一軍投手コーチに就任。15年セ・リーグ優勝。17年に2軍監督に就任、2020年より現職。

著書

明るく楽しく、強いチームをつくるために僕が考えてきたこと

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2021年、20年ぶりの日本一へとチームを導いた東京ヤクルトスワローズ髙津臣吾監...
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