健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

睡眠不足でも問題なし?――医者が教える「健康寿命を延ばす」睡眠の取り方

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睡眠時間にこだわるな

ちなみに、朝が得意な人、苦手な人がいますが、これは、遺伝が関係する体内時計の問題だと言われています。
朝が苦手というと、その人のやる気や性格と関連していると考えてしまいますが、遺伝が大きく影響するのです。
ただ一般的に、若い人は朝が苦手ですが、年と共に解消されてきます。

これまで書いてきたように、睡眠時間は年齢によって変化しますし、季節によっても大きく変わってきます。
いずれにしても、睡眠時間の長短を気にする必要はないのです。
先に触れた遺伝の話になりますが、ロングスリーパーと呼ばれる、成人男性の約2%、女性の約1.5%で、10時間以上眠る人がいます。
それとは逆に、睡眠時間が6時間未満のショートスリーパーと呼ばれる人もいます。短い睡眠でも日中の眠気はなく、健康に影響しません。こういった人は1%未満いると言われています。

年齢、季節、そして遺伝。こうした要因によって必要な睡眠時間は大きく変化します。このことから、睡眠時間だけにこだわるのは意味がないということがわかっていただけましたでしょうか。
それどころか、睡眠時間に神経質になることで、かえって不眠を招いてしまうわけです。

なお、不眠の状態が続くと、足りない睡眠時間は蓄積されていきます。その蓄積された足りない睡眠時間を「睡眠負債」と言います。
負債とはいえ、神経質になる必要もありません。毎日1時間、睡眠時間が足りなければ、別の日に1時間多く眠って、睡眠負債をなくせばいいのです。
実際には私たちは毎日同じ睡眠時間をとっていませんから、無意識のうちに睡眠負債をなくしているのかもしれません。

不眠の解消法

神経質になる必要は決してないのですが、不眠の対処法をいろんなところで目にします。
例えば、生活リズムを整える、毎朝同じ時間に太陽の光を浴びること、朝食をしっかり食べること、夜に強い光を浴びないことなどです。
ただし、これらは理想であって、実践的ではありません。仕事で忙しければ、なかなか規則正しい睡眠は難しいわけです。生活のリズムを変えることは、仕事をしている人にとって非常に難しいことです。

もし、あまりに不眠状態が続いているのなら、睡眠薬に頼るのは決して悪い手段ではありません。
不眠に対していままでは、ベンゾジアゼピン系の薬が処方されてきました。商品名で言うとデパス、ハルシオン、レンドルミンなどです。日本ではこの系統の薬が非常に多く処方されています。
いま新しい睡眠剤としてデエビゴ、ベルソムラという薬に切り替えようとしています。ベンゾジアゼピン系に比べて依存性が少ないので、長期使用にはいいとされています。

このように医学も進歩しているので、眠れないとしても、心配する必要はありません。
睡眠は睡眠時間を問題にせず、年齢や環境を考慮して、自分に必要な睡眠時間を考えていけばいいのです。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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