憲政史上初の女性首相として高市早苗氏が10月21日に就任した。就任直後から外交デビューも果たし、日米、日韓、日中と重要な首脳会談を短期間で一気にこなした。高市氏の明るいキャラクターも相まって、良いスタートを切ったと言えるだろう。
10月24日の衆参両院での所信表明演説は経済重視の考え方を強調し、積極的な財政出動を行う方針を示した。また戦略的な物資の取り扱いなど経済安全保障についても言及した。
この演説のバックボーンとなっているのが、高市氏がまとめ上げた本書『日本の経済安全保障 国家国民を守る黄金律』である。他国による武力行使が国の安全保障の脅威となるように、対外経済関係でも日本は有形無形のリスクに晒されている。
経済安全保障とは、様々な経済活動に伴う多くのリスクから日本の国益を守るという考え方である。本書には高市氏が時間をかけて蓄積した問題意識が多く詰まっている。
読み進めると、いかに日本が経済的なリスクに直面し、狙われているのかがわかる。本書前半でサイバー攻撃をめぐる様々な事例が紹介されるが、被害は大企業や中小企業、都市部や地方を問わず、全国で起こりうることを再認識させられる。
医療関連では、地方の小さな病院まで狙われており、カルテが閲覧できなくなるなど、深刻な影響を及ぼしている。被害を受けた多くの企業や組織で日常の業務環境が破壊され、大きなダメージを受けている。
こうしたことを防止するためにどうすればいいのか、という問題意識で本書は貫かれており、日本経済をいかに守り、成長させていくかという点に力点が置かれている。
本書はまずサプライチェーンの強靭化について言及する。サイバー攻撃はサプライチェーンを破壊する。これを防ぐにはサイバーセキュリティが必要で、複数の法改正が伴う。高市氏はこう記す。
そのうえで、特定重要物質の安定供給を確保しなければいけないと強調する。特定重要物質とは何か。それは国民の生存に必要不可欠な重要性、外部依存性、外部から行われる行為による供給途絶の蓋然性、安定供給確保のための措置を講ずる必要性の四つが条件になるという。
具体的な品目としては、抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体、蓄電池、重要鉱物(レアメタル、レアアース等)などをあげる。2022年に政令で11物資が指定され、24年1月には新たに先端電子部品(コンデンサ、高周波フィルタ)なども追加された。
このほか本書では、重要設備の妨害行為を未然に防ぐことの必要性についても言及する。その対象を「特定社会基盤事業者」と呼び、使用する「特定重要設備」の機能が停止し、または低下したりした場合に、国家や国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい先を政令で指定した。具体的には、電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、航空、電気通信、放送、金融などがあたる。さらに、特定重要技術の開発を支援することの意義についても触れる。ここでいう特定義重要技術とは、「中長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素となる先端的な重要技術」とし、バイオ技術や医療・公衆衛生技術、人工知能・機械学習技術、ロボット工学、サイバーセキュリティ技術、宇宙関連技術など20項目を挙げている。