地方交付税の不交付団体等では予定外の出費を強いられる例があるかもしれないが、どちらも結局は国民の負担である。「スピード感」による無理な期限設定は場合によっては現場を混乱させ税を費消する。
地方公共団体に共通する事務を標準化し、互いの事務を合理化すること自体は誰も否定しない。問題は、これを機会に国が地方公共団体の事務負担の軽減をはかる措置をきちんと講じているかということである。
例えば、標準化の対象となっている20の事務には、「戸籍」と「戸籍の附表」の二つの事務が入っている。戸籍は「一組の夫婦とその未婚の子ども」を単位として編成され氏名、生年月日、性別、親子関係や婚姻関係、出生・死亡・養子縁組などが記載される。住所は直接記載されないが戸籍の附票という別の記録で住所の移動履歴が管理される。外国人配偶者は戸籍に入ることはできないが、結婚の事実は記録される。
要は戸籍とは日本国民であることの証明であり、親子等の関係の記録である。だから国が戸籍事務をマイナンパーカードとリンクするように改善すればずいぶんと地方公共団体の事務負担が軽減される。
利用者にとってもマイナンバーカードを通じて戸籍による証明ができるようになると利便性が増す。相続の時に原戸籍の取り寄せ等ともリンクできると、さらに利便性が増す。この種のことに国は努力すべきだ。
マイナンパーカードは16年度に始まった。国民の保有率は25年に80%に達したとみられている。
開始から10年経って健康保険とリンクし、一気に国民にとって身近なものとなった。振込先銀行口座ともリンクできるようになった。戸籍とのリンクが課題である。
今回、国は地方公共団体の事務の標準化を5年で終えようとして実現しなかったわけだが、所得税の確定申告などをパソコンやスマートフォンでできる電子申告・納税システムe-Tax(イータックス)は24年度の利用率が74.1%と、20年かけてようやく国民の利用率が8割に達しようとしている。
専門家はe-Taxの利点として節税(利用により税率が軽減される)を挙げているが、一般の利用者側から見ると、むしろ税率の計算等が自動的にされる、昨年の記載を利用できる、領収書等の帳票を提出しないでよい、など使い勝手の良さである。
地方公共団体の事務の標準化も、5年という「スピード感」を旗印にするのではなく、地方公共団体の事務負担を軽減する方策について多種多様な地方公共団体の意見を十分聞いて実施すべきだった。
期限を先に定めた結果、その地方公共団体にとって便利になるはずのカスタマイズをあきらめざるを得なかった団体も多かったのである。
地方公共団体情報システムの標準化をめぐる今回の混乱は、国が何かを進めようとするときに拙速を避け、現場当事者の状況をとちんと調べ、意見を聞くことの重要性を教えている。合わせて、ベンダー業界や地方公共団体の諸団体が自らの状況や意見を十分に国に伝えたのかが問われている。