ところが、ただ一つの映画化も実現することなく、出資額のほぼ全額を失って解散した。これは、ANEWが映画ビジネスの特性を理解していなかったことによる。
そもそも、映画は一本ごとに才能とお金を集めて作られるものであり、プロデューサーは企画、脚本、監督・主演の決定、現実の制作、広告、配給などそれぞれの段階でリスクを負いながら資金集め、提供するものだ。ところが、会社を作ってそのスタッフに高給を払いながら、まったく現実の映画化ができなかったというものだ(この顛末はヒロ・マスダ『日本の映画産業を殺すクールジャパンマネー』光文社新書、2020年、による)。
日本の映画製作費は、1本平均3.5億円という(東京工科大学HP「エンタテインメントビジネスに求められる視点とは」)。10億以上の配給収入(興行収入から映画館(興行側)の取り分を差し引いた映画配給会社の取り分。制作会社の取り分はさらに小さくなる)がある映画は23年で34本しかなかったのだから、当然だろう。
アメリカでも、製作費はハリウッドの大作(100億円)でなければ、数十億円程度である。10億円の制作費の映画の企画を売り込むためのコストはその5%以下だろう。
ところが、ANEW は映画7本の企画が進められていたが、1本も上映されることはなかった。出資額が22.1億円だったので、1本あたり3億円余を使って、何の成果も上げられなかったということになる。
日本の映画が海外の一流映画祭で受賞すれば多くの日本人は喜ぶ。オリンピックの金メダルも同じだろう。オリンピックの金メダルならば、外国人コーチを雇う、合宿をする、練習、筋トレ、食事を合理的なものにするなどで、メダルを増やせることが分かっているようだ。金メダルを取った選手への報奨金を増額するという手もある。多くの発展途上国がしていることだ。
国民が喜ぶことに税金を使うのは、筆者は合理的であると思う。授賞監督に、映画祭の格に応じて、次回作を作るための数億円の報奨金を渡せば、より良いものを作ってくれるかもしれない。官民ファンドにお金を流すよりは良い結果が生まれるだろう。あるいは、海外での著作権強化のために使うという使途の制限を付けても良いだろう。
前掲のマスダ氏の著書(93~95頁)には、マスダ氏からANEWの実態を知らされた財務省職員は、ANEWが本来やってはいけない投資をしていることを確認した上で、「財務省としては何もできない」と答えたとのことである。財務省には、増税を唱える前に、すべきことをして欲しい。
また野党も、クールジャパン機構のお粗末さや官民ファンド全般の失敗を攻めて欲しい。マスダ氏の著書や「みんなの政治ナビ」、内閣官房「官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会」の資料もある。週刊文春より読み込むのは大変だが、こちらを追求すれば、きちんと野党の仕事をしていると賞讃されるだろう。