円安が続く中で、日米は遂に「伝家の宝刀」とも言うべき協調介入を行った。実に18年ぶりの事態である。ちなみに、為替に対する政府の介入というのは、それ自体が変動相場制に対する挑戦であり、悪口を言おうと思えば「為替操作(マニピュレーション)」という非難も可能である。従って、多くの場合は関係する当局からは正式な発表は行われない。
けれども、今回の協調介入に関する米国側の対応は異例である。ベッセント財務長官は協調介入の事実を堂々と認めて説明もしているし、それどころかトランプ大統領自身が専用機内の「囲み取材」にあたって大統領自ら円救済を行う旨の発言を行っている。日本側の片山さつき財務相とすれば、いわば最大限の対応を引き出すことに成功したと言えよう。
では、この協調介入について、米国側がそこまでの対応を決断した背景は何であろうか。多くの要素が絡み合った上での判断であり、これを読み解くのは難しい。
まず、米国側の利害としては、当面の円安は好都合という要素がある。
何よりも、円安により値ごろ感の出ている日本の不動産と株には、まだまだ米国からマネー流入のニーズはある。リスクのレベルを幅広く取ってポートフォリオを組む米国の投資家としては、依然として円安を前提とした投資を続ける意志はあるからだ。
これに加えて、俗に言う「円キャリー取引」、つまり安くて金利の低い円で資金調達をして欧米で回すという投資方法も続けられている。こちらは円水準の緩やかな低下が前提になっていると言っても良い性格のものだ。
もちろん、米国側としては円高がメリットになるという要素はある。日本からの輸出がアメリカでの現地生産に切り替わるとか、これを含めた日本の対米投資がしやすくなるのは事実だろう。
けれども、現在進められている日本の対米投資は政治的な背景から決定されたものが多く、円高になったからといって拡大するものとは言えない。また日本からダイレクトに米国に輸出される対米貿易黒字には往年のボリュームはない。
このように米国側のメリットとデメリットを考えると、ここまで派手に協調介入を行う意味合いは見いだせない。けれども、トランプ政権は確かに協調介入を実施した。これをどう理解したら良いのか、そこでカギを握るのはスコット・ベッセント財務長官の存在である。
ベッセント氏を一言で言い表すのであれば、市場の申し子である。若き日にはジム・ロジャースに師事、その後はジョージ・ソロスの懐刀として活躍した後に自立。20世紀末から21世紀初頭にかけて株と為替を軸に稼ぎに稼ぎまくった人物である。
現在のアメリカ経済は、非常に難しい局面に立たされている。コロナ禍以来の過剰とも言える資金はまだ市中に溢れている。これに加えて、バブル化したAI投資と同じくバブル化した不動産投資が市場を支えている。
AIは雇用への悪影響や暴走への懸念など負の側面が明らかになる中で、それでも投資をし続けている。不動産バブルは、賃貸価格の高騰を誘発し、若い世代に巨大な現状不満を供給している。一方で、減税を続ける中では連邦政府の財政は改善せず、米国債の金利は上昇の気配を見せている。
そんな中で、トランプ政権は3カ月後に中間選挙を控えている。2期目の大統領の中間選挙というのは、通常であれば政権の総仕上げではあっても、切迫感は少ないことが多い。けれども、今回の中間選挙というのは仮に政権与党が大敗した場合には大統領への弾劾が実施される可能性が取り沙汰されており、政権には非常な緊迫感がある。