「あれは、麻里子さんのことなんです。(遊園地に)一緒にいきたかったのは麻里子さんなんです。僕はずーっと……」
「わたしもあなたが好き……」
ふたりは抱き合うのだった。
脚本の渡邊真子のセリフは美しくも心にしみいる。
『Tokyo middle 30』(フジテレビ、水曜よる10)もまた、「いま」の30歳代半ばを描いた傑作である。脚本の北川亜矢子(1980年生まれ)は、中堅ともいえる存在ではあるが、現代社会の実相に迫る創作意欲は衰えをみせない。
登場人物の設定は、高校の同級生の35歳。専業主婦の佐倉麻紀(仲里依紗)、アパレル店長の山地遥(のん)と同棲生活を過ごしている小学校教諭の永野薫子(深川麻衣)の3人である。
大ヒットドラマ『東京タラレバ娘』(2017年)では、吉高由里子、榮倉奈々、大島優子が30歳の設定で、そのときの「いま」の婚活や育児の問題をとりあげて話題を呼んだ。あれから、10年近く経って、30歳代半ばの女性たちが直面する「いま」は変化を遂げている。
佐倉麻紀(仲里依紗)は、美容外科医の夫・宗司(渡辺大和)をもって恵まれた家庭を築いているかにみえるが、息子がADHD(注意欠如・多動症)を抱えていることがわかる。清水義孝(風間俊介)と同棲生活の永野薫子(深川麻衣)は突然妊娠していることがわかる。独身のアパレル店長・山地遥(のん)は、来店した起業家の藤井晃之助(朝井大智)と恋に落ちる予感に包まれている。
脚本の北川亜矢子は、3人の深刻な事態に焦点を当てつつも、周辺の人物たちとのユーモラスな日常を描いている。
起用された女優3人は、誰でも主役を張れる日本を代表する女優陣である。男優陣もまた。ドラマの展開が楽しみな一作である。
女性脚本家――優れたドラマの脚本家に与えられる「向田邦子賞」(東京ニュース通信社主催=「週刊TVガイド」発行元)を第1回(1982年度)から第44回(25年度)までの受賞者を見る。大石静、北川悦吏子、岡田惠和、大森美香、井上由美子、森下桂子、兵藤るり…ら、男性脚本家に負けていない。
戦後の映画黄金期を脚本で支えた、田中澄江や水木洋子、そして市川崑監督の妻にして和田夏十(わだ・なっと)の筆名で市川作品の共同制作者ともいえる、市川由美子。なにも、彼女らにさかのぼらなくてもいいのだろう。
戦前の女性作家たちの群像。そして、日本文学を切り拓いたのは、紫式部や、清少納言らの宮中の女性たちであり、そのときの「いま」を描いていたのである。