アサヒビールの屈辱、なぜ11年ぶりにキリンに逆転され首位陥落?スーパードライ時代の終焉

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アサヒ スーパードライ(サイト「Amazon」より)

 アサヒグループホールディングス(GHD)は、勝木敦志専務取締役兼最高財務責任者(CFO、60)が社長に昇格する。小路明善社長兼最高経営責任者(CEO、69)は代表権のない会長に就く。会長の泉谷直木氏(72)は特別顧問となる。就任日は3月25日。社長を退任した後は、代表権のある会長に就くのが慣例となっていたが、小路氏が代表権のない会長に就くことが、食品業界での話題になった。監督と執行の分離を明確にする、ということのようだ。

 2019年3月、それまで泉谷氏が代表取締役会長、小路氏が代表取締役社長だったが、泉谷氏が代表権を外れて取締役会議長になり、代表権を持つのは社長の小路氏一人となった。「一定の期間、業績が下回れば、社長を解任する」。小路氏は、この時、自らの独走を抑える仕組みも導入した。代表取締役を社長一人にしたことについて、小路氏は「社長と会長にはそれぞれ役割がある。飛行機にたとえるなら、社長は主翼、会長は尾翼。尾翼がなければ目的地に到達できません。進路を修正していくのが会長の役割でしょう。社長は最高責任者として行動し、会長は取締役会議長に専念し、非執行役員として中立的な立場で取締役会の運営にあたるべきなのです。こうした考えは泉谷直木会長とも共有している」(19年5月23日付日本経済新聞電子版)と語っている。

 泉谷会長は広報・企画部門出身なので、どうしても執行に口を出したがった。小路社長は営業職が長く、現場は上から口を出されたくない。役割分担をより明確にしたがっていた。小路氏は過去に、このような立派な発言をした以上、会長になるにあたって、代表権を残すことができなかったとみられる。

 コロナ禍で世界のビール市場は激変した。アサヒGHDの20年12月期の連結決算(国際会計基準)は純利益が前期比35%減の928億円だった。飲食店が営業自粛や時間短縮をしたため国内外で業務用ビールが不振となった。

キリン、首位奪還の主役は「本麒麟」

 アサヒGHD関係者にとってショックだったのは、キリンビールが2020年のビール、発泡酒、第3のビールを合わせたビール類のシェアでアサヒビールを抜き去り、11年ぶりにトップに立ったことだ。アサヒは20年分からビール類の販売数量を公表していないが、日経新聞の調べによると、20年の販売シェアは、キリンが37.1%で1.9ポイント上昇。一方、アサヒは35.2%と同1.7ポイント下落した。1.9ポイントの僅差でキリンが逆転した。

 キリンの首位奪還の主役は、「本麒麟」である。19年比32%増の1997万ケース(1ケースは大瓶20本換算)となり、新型コロナ下の節約志向の風に乗った。20年10月の酒税改正による第3のビールの値上げを前にして駆け込み需要も起きた。キリンの主力ビールとなった「一番搾り」は24%減少したが「本麒麟」の拡大で全体では5%減の1億3000万ケースに踏みとどまった。アサヒは販売量全体の半分程度を占めるスーパードライが22%減の6517万ケースに落ち込んだ。スーパードライは19年時点で家庭用と飲食店用が半々。飲食店の営業自粛がモロに響いた。業務用に強いことが仇となった。

 しかし、スーパードライの失速は、今に始まったことではない。16年のスーパードライの出荷量は1億ケースあった。17年から20年までの4年間で3483万ケース減った。これはサッポロビールの昨年の販売量の約9割に相当する。

 かつて瓶ビールの「キリンラガー」が6割のシェアを誇り、ビールの代名詞と呼ばれる時代が長く続いた。だが、1996年に味をリニューアルしたのをきっかけに消費者の支持を失い、アサヒのスーパードライに主役の座を明け渡した。そのスーパードライも消費者に飽きられ、シェアを落とした。コロナはダメ押しとなっただけなのだ。