ヤマダHD傘下でも経営再建できない大塚家具の本当の敗因…残念なM&Aの共通点とは

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大塚家具本社(「Wikipedia」より)

 みなさん、こんにちは。元グラフィックデザイナーのブランディング専門家・松下一功です。

 前回は、企業のM&A(合併・買収)を成功させるには、「同じ理念を持つ」ことと「ソフト面にはメスを入れすぎない」ことが重要であるとお伝えしました。今回は、私が惜しいと思ったM&Aの事例を、改善案と共に紹介します。

ヤマダHDの完全子会社となる大塚家具の命運

 まず、ヤマダホールディングス(HD)による大塚家具の子会社化です。家具と家電の相乗効果で大塚家具の再建を目指したM&Aですが、昨年度は新型コロナによる営業不振で5期連続赤字となりました。その結果、創業家出身の大塚久美子社長が引責辞任し、9月1日付でヤマダHDの完全子会社となりました。

 家電量販店と家具メーカーのM&Aは、一見理にかなっているように見えますが、そもそもの敗因はM&A以前にあるのではないでしょうか。それは、創業者の大塚勝久氏から娘の久美子氏に代替わりする際に、理念継承がきちんとなされていなかったことです。

 つい先日、大塚家具の新宿ショールームに行く機会がありました。リモートワーク需要でワーク関連エリアはずいぶん賑わっていて、関連する家電製品エリアも同様でした。しかし、中間ライン・高級ラインの家具エリアはひと気がなく、寂しさを感じました。

 これだけを見ると、「家具と家電の相乗効果」という点は叶っていると思います。しかし、高級家具を扱う家具店からスタートした大塚家具の強みである、いい商品を見定める「目利き」は、まったくと言っていいほど活かされていません。

 個人的な理想をいえば、久美子氏に代替わりする際に、目利き文化もきちんと継承しておくべきでした。そして、業界の流れに乗って安さを売りにするのだけではなく、高級ラインを良心価格で販売する別事業を立ち上げたり、そのスキームを活かした共同事業をヤマダHDと起こしたりする方がよかったのではないかと思います。

 現状の大塚家具ができることといえば、原点回帰でしょうか。つまり、目利きを活かして揃えた高級ラインを良心価格で販売することですが、いささか難しい気もします。

ギターブランド・ギブソンの失敗

 2つめの惜しい事例は、2018年に経営破綻したギブソンによる買収です。アコースティックギターとエレクトリックギターが人気のギターブランドだったギブソンは、1970~80年代に登場した安価な模倣品の攻勢により、経営不振に陥ってしまいます。工場閉鎖や買収を経て、2000年代に入ると、オンキヨー(現・オンキヨーホームエンターテイメント)やティアック、フィリップスの音響機器部門を買収しました。

 これらは、ギターブランド一本では経営が難しいと考えた末の施策だったのでしょう。しかし、アップルの大躍進によって形成されたライトオーディオ市場は、音響メーカーのみならずPC周辺機器メーカーもひしめき合う激戦区に。ギブソンはギターで築いたブランド力を活かせず、M&Aによって抱えた負債も仇となり、18年に経営破綻してしまいました。

 私の見立てでは、ギブソンヤマハになりたかったのだと思います。世界最大級の総合楽器メーカーであるヤマハの歴史はピアノ製造から始まりますが、ただピアノをつくっていただけではありません。ピアノ以外の楽器もつくりながら、音楽教室を開き、コンクールを開催して、世界中に数々の優れたアーティストを送り出してきました。言い方を変えると、音楽を文化として私たちの生活に根付かせ、育んできたのです。

 たとえば、子どものために奮発してピアノを購入したとします。はじめは喜ぶかもしれませんが、そのうち、ただの置物になってしまう可能性もあります。そこで、ピアノを購入してくれた人々のために、ヤマハはピアノ教室をつくりました。すると、ピアノの腕を上げるために、いろいろな人が通い始めます。