
——起業を見据えたとき、やっておいたほうがよいことや経験しておくべきことはありますか?
メンバーとして新規事業を含む起業活動のプロセスに関わったという経験は、できるのであればしておいたほうがよいですね。前段でもお話ししたように、起業活動に関してはプロセスを知らない人が多い上に、教えてくれる人もそう多くありません。もちろん、起業活動に同じパターンはありませんが、目の前で見た場合、それらに対する一定の理解ができあがります。
起業が“自分ごと”になることもメリットです。すでに大きなサービスをつくった起業家を、スポーツ選手でいうと大谷翔平選手のような存在のように捉えてしまうことはないですか? しかし、実はほとんどの場合、ビジネスには特別な才能が必要になることはありません。起業活動に関わることで、「コツコツ真面目に積み上げていくことでここまでできるのか」という、“自分にもできる感”を味わうことができるんですよね。
——しかし、起業活動に携わるには、機会に恵まれるかどうかも影響しますよね。
その場合は、自分がやろうと思っている事業や規模の会社がどうやって立ち上がったのか? をオープンソースで事例研究するのがよいですね。ビジネスにも、勉強やスポーツと同じく、「こういう方法を取れば、一定の確率でここまで成長できる」というフレームが存在するためです。逆にこの研究を怠ると、特定の一社だけを参考にしてモノマネしたり、場当たり的に右往左往したりすることになります。やろうと思えば何百社も研究できるはずなのですが、それをやらずに起業しようとする勉強不足な人が非常に多いです。
——起業を目指す人が勉強不足に陥ってしまう原因はどこにあるのでしょうか?
まず、事例研究がどれだけ重要なことなのか理解していないから、ですね。起業に関することは、受験や部活とは違い、強制力を持って「これをやれば勝てる」と教えられるような機会がほとんどないため、事例研究を「やらなければいけないこと」と認識できていないのです。また、起業のプロセスが多岐に渡りすぎているように見えて、一社一社の事例を研究していくことが有意義なものに感じられない、ということもあるかもしれません。
もうひとつの原因は、自分自身のアイデアに惚れ込みすぎることです。一刻も早く着手したいという気持ちが先行して、さまざまな情報を自分自身にとって都合よく解釈し、ネガティブな情報を排除していくのです。情報を排除するという行動が、結果的に勉強不足につながっていきます。

——起業を目指す人の中には、そういった自分自身のアイデアに惚れ込んだり、非現実的な目標を掲げている人は少なくないのでしょうか?
いえ、まったくそんなことはないですね。少なくともブーストキャピタルに面談に来る人の多くは、数値的な目標をすでに持っていたり、自分の会社をつくって意思決定する立場にいたいと考えていたりする人がほとんどです。ごく稀に、「起業するからにはユニコーン起業に」など、漠然とした目標を掲げてくる人もいますが、私からすると「いやいや、ユニコーンって……なめんなよ」という気持ちになることもありますね(笑)。
もちろん、夢を大きく持つことを推奨する経営者もいますし、私もそういった大きな志を持つなとは思いません。しかし、その目標にリアリティがあるか? という部分を認識するメタ認知が足りないと、ただの妄想で終わってしまいます。たとえば、「大谷翔平選手のようになりたい」と思ったときに、地元の草野球チームですら勝てない状態で、ひらすらその目標だけ掲げ続けるのはリアリティがありません。まずは「草野球で勝つ」、それから「甲子園に出る」など、目標から逆算した段階的な成長戦略が必要です。