本気で挑むなら、まず草野球を勝ち抜け──凡人のための逆算起業論

——小澤さんのこれまでの起業や事業も、このような戦略で行われていたように見えます。

 基本的には目標に対して最適なものを選んでいく、という逆算の方法です。一番最初の起業に関していえば、「家業の借金を返す」という目的が先にありました。その金額を稼ぐためにどんな仕事が最適か? をまず調査して起業家を選択し、自分自身の年齢とビジネス的なケイパビリティを加味した結果、参入すべき市場はITだという結論に至った結果の起業です。

「自分が今こんな能力を持っているから」「こんなことをやりたいから」という地点からの積み上げではないですね。この考え方は、M&Aに関しても同じことがいえます。最終的な設計図を見たときに、すでに存在しているコンテンツを入れ込むことが最適な場合、一からつくるのではなくM&Aという手法をとる、というイメージです。

座学は成立しない!起業家に必要な学びの方法とは

本気で挑むなら、まず草野球を勝ち抜け──凡人のための逆算起業論の画像5

——ブーストキャピタルでは、人材募集でも、その仕事に必要な能力や経験、展望を明かさずに募集をかけていますよね。

 そうですね。何をやるかは言わない状態で新規事業や新会社の人材募集をかける、という方法をとっています。一見、無茶苦茶な募集方法にも見えると思いますが、実はかなりの応募が来るのです。「なんでもいいからやってみたい」「何かで人生を切り拓いてみたい」という人はかなりの割合でいます。そういった人からの応募が多いですね。私は、やりたいことが明確にあるよりも、こういった「なんとなく何かやりたい」という人のほうがマジョリティだと考えています。

——ブーストキャピタルでは、起業家志望や人材募集で集まった方々に、ファンドとしてどのように関わっているのでしょうか?

 我々はVCとして起業に関わるだけではなく、起業家育成プログラムなども行っているのですが、いわゆる座学で何かをレクチャーするということはなく、家庭教師的に伴走していくスタイルをとっています。

 起業というものは、それをやる人物もやる内容もそれぞれ状況が異なります。すべてを「起業」と一括して扱うことは、いわばスポーツも将棋も勉強もすべて同じカテゴリに入れてしまっているのと同じです。とてもではないですが、座学での教育は成立しません。まずは市場選び、そしてどんな会社にするのか? またはどんな会社を買収するのか? という部分から一緒に進めています。

——市場選びの段階からすでに入っているのですね。

 事業が成功するか否かに、市場選びが大きく影響するためです。それに、私自身の人生から「何をやるかを自身の強い意思で選ぶこと」に、そこまで重要性は感じていません。私は最初にIT分野で起業し、楽天時代にはプロ野球球団の立ち上げにも関わりましたが、それまでIT関係の仕事をやりたい、プロ野球に関わりたいと思ったことはありませんでした。しかし、それでも十分に人生が変わったし、十分どころか十二分に楽しかったんですよね。我々と関わって事業をやろうという方が同じように感じてくれるだろう、という自信は常に持っています。

買えなければつくる。ブーストキャピタルのファンド構想

本気で挑むなら、まず草野球を勝ち抜け──凡人のための逆算起業論の画像6

——最後に、ブーストキャピタルの今後の展望について教えてください。

 ブーストキャピタルは、つくる・育てる・買うの3つを行うファンドです。M&Aなどの買収が成立しない場合も多いため、つくる・育てるという選択肢も持っておくことでファンドとしての幅が広がると考えたことが起因しています。私やメンバーがこれまでに起業や譲渡、買収などの経験があることで、この3つの要素に寄与できる実績を持っていることも大きな強みですね。

 今年は会社を「つくる」にフォーカスして数社、「買う」に関しても1~2社できたらよいですね。この取り組みが、今後どうスケールしていくかが見えてくるには、10年ほどの時間がかかるかなと考えています。しかし、ファンド経営者に事業経営の経験者は少ないですし、私のこれまでの経験から起業に対する抵抗がないことは、ブーストキャピタルのファンドとしての大きなアドバンテージだと感じています。

 小澤氏が語るのは、天才のサクセスストーリーではなく、常に地に足がついた起業に対する見解です。小澤氏の話から見えるのは、「起業や新規事業に必要なのは成功までの確実な道筋や劇的な展開ではなく、事業に合った“逆算の戦略”」ということ。

「何をやりたいか」だけにとらわれることなく、「目的地までどう歩いていくかを突き詰める視点を持てたとき、起業が現実的な選択肢になっていくのかもしれません。