テレビ広告を“勘”から“科学”へ… アドテクユニコーンが中小ブランドを主役に

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画像はHPより引用

●この記事のポイント
・テレビ広告の世界に「費用対効果」を測定することができるテクノロジーを持ち込んだMNTNがニューヨーク証券取引所に上場。時価総額は15億ドルを超える。
・デジタルマーケティングでは当たり前の価値基準が、長らくテレビ業界では導入されてこなかった。だが、インターネットと同じようにテレビ広告の成果を測定できるようにし、その効果を見ながら広告を運用することが可能になった。
・また少額で広告出稿が可能になったことから、中小企業が広告の中心へと変わりつつある。

「Netflixがテレビに対してしたことを、MNTNはテレビ広告に対して行っている」米MNTNの創業者兼CEO、マーク・ダグラス氏は上場時の目論見書でこう語った。

 MNTNはYouTube広告やFacebook広告のように、誰でも簡単に「テレビ広告」を出稿・運用できるプラットフォームを運営する会社だ。長らく視聴率など曖昧な指標でしか測れず「ブランド認知」の領域に留まっていたテレビ広告の世界に、デジタルマーケティングでは当然のように重要視される「広告費用対効果(ROAS)」という価値基準を持ち込んだアドテク業界のユニコーンとして知られる。

 2025年5月末にニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場し、足元の時価総額は15億ドルを超える。2024年の売上は前年比27.9%増の2億2557万ドルと大幅成長を続けており、調整後EBITDAベースでは3880万ドルの黒字を確保している。

 多額の予算を持つ大企業のための「聖域」であったテレビ広告をどのように民主化し、中小企業やD2Cブランドなどあらゆる規模の事業者が参加できる市場に変えたのか。本記事ではMNTNの事業モデルについて解説をしていく。

目次

デジタル広告のパイオニアが挑む「最後の非効率」

 MNTNの創業者であるマーク・ダグラス氏は、20年以上にわたりテクノロジー業界の第一線で活躍してきた人物である。オンラインデーティングサービスeHarmonyのVPoT(Vice President of Technology:システムの責任者)や、広告テクノロジー企業The Rubicon Project(現Magnite)のVPoE(Vice President of Engineering:エンジニア組織の責任者)を歴任し、パフォーマンスマーケティング(いわゆる成果報酬型のマーケティング)の世界を知り尽くしていた。

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売上・顧客数ともに大幅成長が続く

 MNTNのルーツは、2009年にマーク・ダグラス氏によって設立されたSteelHouse, Incにある。当初はディスプレイ広告やリターゲティングといった、すでに競争が激化しコモディティ化が進んでいた市場で事業を展開していたが、2018年にまだ黎明期にあったコネクテッドTV(CTV)市場に大きな市場機会を見いだす。

 CTVという、いわばデジタルインフラを持つテレビがあれば、広告史上初めてテレビ広告の成果を「測定可能」にし、デジタル広告のように成果をみながら「運用」できる世界をつくることができると気づいたわけだ。その後、既存事業のほとんどを切り捨て、ストリーミングTVの広告という事業領域に特化した。

「ケーブルテレビの番組表やDVR(デジタルビデオレコーダー)は、もはや過去の遺物になった。しかし、広告主とストリーミングネットワークの関係はほとんど変わっていなかった。私たちは、そのギャップを埋めるためにMNTNパフォーマンスTVを立ち上げたのである」。株主への手紙で彼はこう語った。ここの間隙こそが、テレビという巨大メディアに残された「最後の非効率」だという。