森永乳業、牛ふん尿からメタンガスを回収…酪農の持続可能性を支える挑戦

「直接的なコスト削減効果は小さいですが、経営上のリスクを減らし、将来的な拡大を可能にする点で価値があります」(内藤氏)

独自性を支える「森永エンジニアリング」の技術

 本プロジェクトの特徴の一つが、グループ会社・森永エンジニアリングの技術を活用している点だ。同社はこれまで食品工場向けの排水処理設備を手掛けており、そのノウハウを酪農分野に応用した。

 特に「浄化工程」は独自性が高く、におい対策や処理水のクリーン化など、地域社会との共生にも直結する。

 森永乳業が描くのは、自社農場にとどまらない地域単位での資源循環だ。

 ・牛ふん尿 → エネルギーや肥料
 ・野菜残渣など農産廃棄物 → バイオガス資源に活用
 ・発電された電力 → 地域利用や災害時の非常電源

「酪農家だけでなく、地域全体で資源を循環させる仕組みをつくれれば、酪農の社会的役割も広がります」(内藤氏)

 森永乳業は「サステナビリティ中長期計画2030」のなかで「資源と環境」を重点テーマの一つとして掲げている。生乳調達においてGHG削減は避けて通れない課題であり、その一手としてメタン回収事業を位置づけている。

「一つの技術で大幅にGHGを減らすのは難しい。地域や経営規模によって適した方法は異なります。我々は“解決策の一つを提示する責任”があると考えています」(内藤氏)

投資かコストか??普及の条件

 環境対応が「コスト負担」になれば普及は進まない。内藤氏は「酪農家にとって財務的にもプラスになること」が条件だと語る。

「環境価値と経済性の両立がなければ、どんなに意義のある技術でも広がりません。今は一部実証段階ですが、酪農経営にメリットをもたらす形にしていくことが不可欠です」

 現時点では一部実証試験中であり、 海外進出は時期尚早とされるものの、将来的には地域単位でのエネルギー地産地消、災害時の電力供給など、多面的な発展が視野に入る。

「食品メーカーが環境エネルギーにどう関わるか。その模索の一つが今回の取り組みです。収益だけを目的にするのではなく、酪農の基盤を守ることこそ我々の役割だと思っています」(内藤氏)

 森永乳業のメタンガス回収事業は、単なるSDGs対応のアピールではない。直接の収益性は薄いものの、酪農家の負担を軽減し、持続可能な生乳調達を支える「見えない投資」である。

 食品メーカーが環境と経営をどう両立させるか。その答えの一つとして、このプロジェクトは今後の酪農・畜産業界の方向性を示唆している。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)