●この記事のポイント
・米国は「核融合エネルギー戦略2024」で国家規模の支援を開始、NRCによる商業炉規制策定で制度面も整備へ。
・技術的ハードルと資金格差が依然大きいものの、エネルギー覇権をめぐる新時代の主戦場として核融合が浮上している。
「夢のエネルギー」と呼ばれてきた核融合発電が、いよいよ実用化の入り口に立っている。
米国では2024年に「核融合エネルギー戦略2024(Fusion Energy Strategy 2024)」を策定し、国家プロジェクトとして民間投資を誘発する体制を整えた。政府は1社あたり最大4200億円規模の資金支援を検討しており、規制面でも商業化を見据えた法整備を急ぐ。米国原子力規制委員会(NRC)は、2027年末までに商業用核融合炉に適用される新たな安全基準を策定する方針を明らかにした。
NASA、アマゾン、グーグルなどの大手企業から人材が続々と流入し、「核融合バブル」という言葉すら聞かれるようになっている。果たして、米国主導のこの熱狂は本物なのか。そして日本は、このエネルギー覇権争いのなかでどこまで存在感を示せるのか。
●目次
米国では、2022年にカリフォルニア州ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)が、世界で初めて「点火(Ignition)」に成功し、核融合の商用化へ大きな一歩を刻んだ。これを契機に、ベンチャー資金が一気に流れ込み、核融合スタートアップが次々に誕生している。
象徴的なのが、マサチューセッツ工科大学(MIT)発のコモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)だ。同社は、超伝導磁石を用いたトカマク型炉の開発を進め、2023年にはシリーズBラウンドで約4200億円を調達。米国エネルギー省(DOE)はこれを「民間資本主導の核融合開発の成功モデル」と位置付けている。
その背後には、トランプ政権が再登場した場合に予想される「エネルギー自立回帰」の政策基調がある。共和党政権は化石燃料と同時に新型原子炉・核融合にも積極的で、再エネ偏重からのシフトを明言している。こうした政治的追い風を受け、米国内の核融合産業団体FIA(Fusion Industry Association)にはすでに150社以上が加盟。「2040年までに数千基の核融合発電所を建設する」という壮大な計画も公にされている。
しかし、熱狂の裏にはリスクもある。たとえば、英国や米国の試算では、実験炉1基の建設コストが約4兆円に達する可能性が指摘されている。そのため、現段階では採算性を確保するには程遠い。さらに、燃料であるトリチウムの供給や、プラズマの安定制御といった技術的課題も残る。
米シンクタンクのブルッキングス研究所は、「核融合ブームはドットコム期に似た構造を持つ」と指摘する。技術的進展よりも投資額が先行し、スタートアップが過剰評価されているというのだ。実際、業界関係者の間でも「2030年代後半~40年代以降でなければ商用化は難しい」という冷静な見方が大勢を占める。
また、政権交代リスクも大きい。民主党政権では気候変動対策の文脈で核融合を支援する一方、トランプ政権では「戦略エネルギー」として扱う可能性がある。政策の方向性が変われば、資金の流れや法規制の整備も左右される――この不確実性が「バブル」と呼ばれる所以だ。