資生堂、過去最大の赤字に…「マーケティングの巨人」に何が?V字回復の可能性は?

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東京銀座資生堂ビル(「Wikipedia」より)

●この記事のポイント
・資生堂が2期連続・過去最大の赤字に転落。高価格帯への集中や海外M&A戦略が裏目に出た背景は何があるのか。
・ヒット商品不在や中国市場の低迷など外部要因も重なり、ブランド再構築とマーケティングの再定義が急務となっている。
・再生の鍵は「中価格帯」再強化とAI活用によるデータドリブン経営。感性と構造を融合できるかが復活の分岐点となる。

 11月10日、資生堂は2025年度の純利益が520億円の赤字になる見通しを発表した。2期連続の赤字であり、過去最大の損失となる。さらに今年12月に200人前後の希望退職も募集することも合わせて発表した。世界的に知られる化粧品大手であり、国内外で“ブランド経営の成功例”とされてきた資生堂に、何が起きているのか。

 同社は2021年、「選択と集中」を掲げ、日用品やマス向けコスメ事業から撤退。長年親しまれてきた「TSUBAKI」「専科」「AQUALABEL」などを含む事業を売却し、世界の高級ブランドに並ぶプレミアム領域へと経営資源を集中させた。しかし、その決断から4年後、資生堂は深い業績の谷に直面している。

●目次

「選択と集中」がもたらした副作用

 資生堂の2020年代前半の経営戦略は明確だった。「グローバルプレステージ市場で、ラグジュアリー化粧品ブランドとして生き残る」。このために、同社はD&G(ドルチェ&ガッバーナ)など複数のブランドとのライセンス契約を終了し、高価格帯の自社ブランドに注力した。

 だが、結果は逆風となった。2019年以降に実施された海外M&Aでは、買収先の減損処理が相次いだ。今回の赤字の主要因も、同年に買収した米国の化粧品会社に関する減損である。

 一方で、売却された事業群──特に「TSUBAKI」を含む日用品事業を引き継いだファイントゥデイ(旧ファイントゥデイ資生堂)は、堅実に黒字を確保し、東証プライム上場を視野に入れるまで成長している。皮肉にも、手放した事業が成果を上げ、残った中核事業が苦しむ構図が浮かび上がる。

 資生堂の業績悪化を語るうえで、外部環境の変化も欠かせない。同社が収益の柱としてきた中国市場が、近年の景気減速や消費者の購買行動変化により停滞している。特に高価格帯の化粧品は“自分へのご褒美消費”の対象から外れ、地場ブランドや韓国勢に押される構図が鮮明だ。

 また、グローバル市場全体で見ると、「SK-II」「エスティローダー」「ディオール」など競合ブランドが強いマーケティングと新商品投入を続けるなか、資生堂のヒット商品は近年少ない。ブランド再構築の途中で、消費者に鮮烈な印象を与える“旗艦商品”を欠いているのが実情だ。

マーケティングは本当に失敗だったのか

 資生堂の経営は長らく「マーケティング主導型」と評されてきた。その象徴が、コカ・コーラ社で世界的なブランドマネジメントを手がけた魚谷雅彦氏の登用である。2014年に社長に就任して以降、魚谷氏はブランド戦略を軸に、デジタルを活用したマーケティングやグローバル統合を推進してきた。

 ただし、今回の赤字を単純に「マーケティングの失敗」と断じるのは早計だ。実際、資生堂はSNSキャンペーンやデジタルCRMの導入で一定の成果を上げており、ブランド認知度やエンゲージメント指標は悪化していない。問題はむしろ、マーケティングが効率的に作用するための“土台”──商品開発、流通戦略、地域特性への適応──が十分に連動していなかった点にある。