●この記事のポイント
・みずほ銀行で220社のスタートアップを支援し、30社超を上場に導いた”伝説のバンカー”大櫃直人氏が、ミダスキャピタル専務取締役パートナーとして新たな挑戦を始めた。
・スタートアップ成功の鍵は「3~4人の強い経営チーム」。社長1人のカリスマ経営では、急成長期を乗り越えられないと強調する。
・AI時代の資金調達は「最初に大きく集めて、次は上場かM&A」へ。従来のシリーズ型調達から大きく変化している。
メルカリ、マネーフォワード、BASE??。日本を代表するスタートアップの創業期を支え、「伝説のバンカー」と呼ばれた男がいる。
大櫃直人氏。みずほ銀行で約220社のスタートアップを支援し、そのうち30社超を上場に導いた実績を持つ。その大櫃氏が新たなステージとして選んだのは、投資会社ミダスキャピタルの専務取締役パートナーという立場だった。
銀行員として長きにわたってスタートアップ支援一筋で走り続けた男は、なぜ今、投資の世界に身を投じたのか。そして、AI時代のスタートアップに何を見ているのか。大櫃氏に話を聞いた。
●目次
「大きな転機になったのは、50歳で渋谷の支店長になった時です。そこでスタートアップの方々と出会うきっかけがありました」
大櫃氏がスタートアップ支援を始めたのは、みずほ銀行渋谷中央支店の支店長時代。それまで本部で5~6年にわたりM&Aサポートを担当し、大企業との太いネットワークを築いていた。そのキャリアを経て渋谷中央支店を任されたという事実は、メガバンク内でもトップ層の実力を評価されていた証左である。
「スタートアップは、実績もリソースも信用もない。でも、夢を持った優秀な人たちが起業している。金融機関として何かお手伝いできないかと思ったんです」
大櫃氏が最初に着目したのは「信用補完」だった。銀行がスタートアップに代わって大企業を紹介する。M&A業務で培ったネットワークを活用し、大企業とスタートアップをダイレクトに結びつけた。
渋谷支店長時代、大櫃氏は約200社以上のスタートアップと取引を開始。そのうち26社が上場した。1割を超える「打率」は、偶然ではない。
顧客紹介から始まったスタートアップ支援。次に大櫃氏が挑んだのは「融資」だった。
「当時、金融機関は効率化を徹底的に求める中で、売上基準で顧客を線引きしていました。スタートアップのような小規模企業に担当者をつけたり融資したりすることは、戦略上難しかったんです」
本部を説得し、審査部門と闘い、少しずつ融資を実現していく。メルカリ、BASE、マネーフォワード……。赤字でも将来性のある企業に、大櫃氏は融資を実行した。結果、貸し倒れはほぼゼロ。融資残高は順調に伸びていった。
では、大櫃氏は何を見て「この企業は伸びる」と判断したのか。
「融資をするかしないかの判断と、会社が成長するかどうかは、ほぼイコールです。それを『答え合わせ』しながら導き出したのは、スタートアップと中小企業の成り立ちの違いでした」
従来の日本型経営では、優秀な社長1人がすべてを思い描き、社員がそれについていく。階段を上るように、踊り場で体力を蓄えながら時間をかけて成長する。