この壁を破った技術として注目されているのが、Thinker社のロボットハンド「Think Hand F」である。
最大の特徴は、「つかむ」という行為を人間に近い感覚で行える点だ。
・指に搭載された近接覚センサーが、食材に触れる前に形状を把握
・2次元カメラが位置と姿勢を認識
・ロボット自身が「どうつかめば最適か」を判断して動作を調整
・柔らかさ・形の違う食材でも、崩さずにピッキングが可能
食品工学の研究分野では、「不定形物の取り扱い」は長年の難題とされてきた。それだけに、この技術がもたらすインパクトは小さくない。
「惣菜工場では、機械化が進んでいても“最後の盛り付け工程”だけは人の仕事になっていました。Think Hand Fの登場は、いわば食品工場における“ラストマイルの自動化”。これが実現すれば、ライン全体の自動化がほぼ完成形になります」(食品工学専門家・藤田直久氏)
Think Hand F はすでに複数の食品メーカーが試験導入を進めている。公開情報の範囲では、大手スーパー向け惣菜工程などでの活用が進んでいるとされる。24時間稼働が可能になれば、人件費の大幅抑制だけでなく、深刻化する製造人材の不足を補う切り札にもなり得る。
飲食DXの主役はロボットだけではない。実は、冷凍技術の進化が飲食店の経営構造を根本から変えつつある。
エムプラス社が開発した液体急速凍結機「ストームフリーザー」は、マイナス50度のアルコール液を用い、空冷方式では到達できないスピードで食品を凍結させる。この“スピード”が、店舗経営に多様なメリットをもたらす。
● 食品ロスの大幅削減
食材を凍結する際に問題となるのは、氷結晶が細胞を破壊する「ドリップ」だ。これが起きると、解凍後に味が落ち、食感も損なわれる。
液体凍結は空冷よりも熱伝導率が圧倒的に高く、食品の中心部まで短時間で到達するため、細胞破壊を抑え、味を保持できる。
「冷凍は“劣化する保存”という常識を覆す技術です。液体急速凍結を使えば、旬の食材を最高の状態で閉じ込められるため、季節を問わず高品質なメニューを提供できます」(前出・藤田氏)
● 業務負荷の平準化と回転率アップ
忙しい時間帯に手作業で提供していたメニューを、非ピーク時間に仕込み → 急速冷凍 → 注文後に解凍して提供する運用が可能となる。
飲食店の“繁忙の波”をならし、機会損失の削減、在庫の最適化に繋がる。
● 新しい販路を作る“製造業化”の可能性
液体凍結によって品質を保てるため、これまでテイクアウトできなかったメニューも、高品質な冷凍食品として販売できる。飲食店が“商品を作って売る”製造業的モデルを採用できるわけだ。
ストームフリーザーは居酒屋・スイーツ店・精肉店など多業態で導入が進んでおり、公開情報上も多数の事例が確認できる。
飲食店は中小零細が9割以上を占め、人材不足の影響を最も受けやすい産業である。日本フードサービス協会の調査でも、飲食店の人材不足率は常に高止まりしており、特に調理スタッフの不足が深刻だ。
こうしたなか、今回紹介した3つの技術に共通するのは、「人への依存を抜け出し、標準化された生産体制を築く」という視点である。
モリロボ「Q」:教育負荷の軽減、属人的な技術の排除
Think Hand F:不定形食品という自動化の“最後の壁”の突破
ストームフリーザー:仕込みの平準化、食品ロス削減、販売機会の拡大
これは単なる“便利な機械の導入”ではなく、企業の損益構造そのものを改善する投資である。