「実質国有化」ラピダス、3兆円投入+債務保証8割…JDIの二の舞or奇跡の逆転劇

● 旧ルネサスエレクトロニクス
NEC、日立、三菱電機の半導体部門を統合。だが、出身母体ごとの派閥争いで意思決定が遅れ、スマートフォン向け半導体の成長機会を逸した。

 ラピダスにも、同じ構図が見え隠れする。出資企業はトヨタ、NTT、ソフトバンク、NEC、三菱UFJ銀行など、日本を代表する8社。「オールジャパン体制」は一見心強いが、裏を返せば意思決定が複雑化しやすい。

 さらに今回は、国が融資の8割を保証する。金融機関にとっては安心材料だが、経営側にとっては「最後は国が支える」というモラルハザードを生みかねない。

 戦略コンサルタントの高野輝氏は、企業統治の観点から警鐘を鳴らす。

「債務保証は“時間を買う”政策です。ただし、その時間を緊張感のある経営改革に使えなければ、JDIと同じ結末になります」

世界は「補助金戦争」の時代…ラピダスだけが特別ではない現実

 もっとも、ラピダスへの支援を「甘やかし」とだけ批判するのは公平ではない。半導体は今や、単なる電子部品ではなく、国家安全保障の中核インフラだ。

 米国はCHIPS法で7兆円超、中国は国家主導で数十兆円規模、韓国もサムスンを軸に破格の税制優遇を行っている。

 各国が「民間任せ」を捨て、国家が前面に立つ時代に入っているのが現実だ。日本だけが支援を渋れば、先端半導体の製造基盤は完全に海外依存となり、自動車、AI、防衛産業すら成り立たなくなる。

 問題は、ラピダスが“後発”であることだ。2027年の量産開始時点で、TSMC、サムスン、インテルはさらに先の世代へ進んでいる。実績のない新興ファウンドリが、顧客をどう獲得するのか。ここに最大の不透明さが残る。

「国策の違い」はどこにあるのか

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 最大の違いは、ラピダスが「救済」ではなく「賭け」として設計されている点だ。だが、その賭けが成功するかどうかは、冷徹な経営判断を貫けるかにかかっている。

 国の関与強化は、巨額投資を可能にする強力な盾である一方、市場原理からの緊張感を奪う重い足かせにもなり得る。

 ラピダスが過去の国策企業と決定的に異なる存在となるには、
・政治や大株主の顔色をうかがわない
・採算が合わなければ撤退も辞さない
・「失敗する勇気」を持つ
という、極めて民間的な経営が不可欠だ。

 3兆円規模の血税を投じたこの挑戦は、日本の産業政策そのものへの審判でもある。ラピダスは“JDIの再来”となるのか。それとも、日本が最後に放つ“逆転の一手”となるのか。

 その答えは、2027年の量産ラインが動き出す日まで、誰にもわからない。

【FAQ】ラピダス計画の「ここが気になる」

Q1:なぜ「国有化」に近い形まで支援を強めるのですか?

A: 最先端半導体(2nm以下)の工場建設には、1ライン数兆円という天文学的な投資が必要です。現在の日本には、それだけの巨額リスクを単独で取れる民間企業が存在しません。米国や中国も同様に国家レベルの巨額補助金を出しており、日本政府としては「今ここで投資をしなければ、次世代産業の全権を海外に握られる」という危機感から、退路を断つ形で関与を強めています。

Q2:ガラス基板で「生産効率10倍」は、本当にゲームチェンジになりますか?

A: 理論上は非常に強力な武器です。従来の円形シリコンウェハーに比べ、四角い大型ガラスパネルは面積効率が高く、一度に多くのチップを処理できます。特に、GPUとメモリを複雑に組み合わせるAI半導体において、この「後工程(パッケージング)」の低コスト化は、TSMCなど既存の巨人に対する有力な差別化要因になり得ます。ただし、ガラスの破損しやすさや熱制御など、量産化に向けた技術的ハードルは依然として高いままです。