スペースX、xAIを39兆円で統合…宇宙データセンター構想が示す“マスク帝国”

宇宙放射線という現実的リスク

 ただし、宇宙データセンターは構想段階を出ていない。宇宙空間では銀河宇宙線などの高エネルギー粒子が飛び交い、半導体メモリ内のデータを書き換えるビット反転が発生する。地上よりもはるかに高い頻度で起きるとされる現象だ。

 AIチップは膨大な演算を並列で行う。わずかなエラーが推論結果に影響する可能性も否定できない。前出・岡崎氏は、冗長化やエラー訂正技術の強化が前提になるとしながらも、地上のデータセンターと同等の信頼性を確保するには時間がかかるとの見方を示す。スペースXの技術力をもってしても、実用化には数年単位の検証が必要という慎重論は根強い。

次に動くのはテスラか

 市場が視線を向けるのは、この統合の先にある動きだ。テスラは競争が激化するEV市場で構造転換を迫られている。モデルSとモデルXの生産終了を発表し、EV工場をヒト型ロボットOptimusの量産拠点へ転換する方針を打ち出した。移動手段から労働力へ。事業の重心が変わりつつある。

 テスラはヒト型ロボットに加え、自社開発のAI半導体Dojoや自律走行アルゴリズムを持つ。ここにスペースXの宇宙インフラとStarlink通信網が重なれば、ロボットや車両を広域で制御する統合基盤が整う。Neuralinkが目指す脳と機械のインターフェースまで含めれば、宇宙データセンターを中枢とした巨大なデータ基盤が構想上は完成する。

 岡崎氏は、「もし資本が一本化されれば、宇宙、AI、ロボティクス、通信が相互依存するエコシステムが形成される」とみる。それは単一製品の競争ではなく、基盤そのものの支配を巡る競争に近いという。

 スペースXによるテスラ買収は既定路線との観測も流れる。実現の可否は別として、統合が進めば戦略の整合性は高まる。中国製EVの台頭で揺れるテスラにとっても、宇宙とAIを軸にした成長物語は新たな選択肢になり得る。

 多惑星種族への進化という壮大な目標の背後で、進んでいるのはデータと計算資源の支配を巡る競争だ。宇宙に拡張されたインフラを誰が握るのか。今回の統合は、その構図をより鮮明にした。宇宙に浮かぶサーバー群が地上の経済や労働と結びつく未来は、もはや比喩ではなく、具体的な戦略として語られている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=岡崎大輔/工学博士)